オーガニック農業 プロの技 その1

無農薬栽培、有機栽培は、自然に寄り添う農法ですが、何もかもを自然任せにしているわけではありません。ある程度は虫を抑え、作物以外の草を抑え、一定の収穫が得られるように、環境に配慮しながら生産者が手を加えています。もちろん、強力な農薬や安価な化学肥料は使わずに、オーガニック農業独特の知恵や工夫で取り組まれています。

また農業には、農薬や肥料が直接登場する場面以外にも、耕運(耕す)、種まき、苗づくり、植付け、草刈り、収穫、洗い・選別、梱包・出荷、etc…と、たくさんの工程があります。むしろ作業量、人手、人件費という面では、こちらの比重が大きかったりします。
有機農家でも、これらの工程に機械を導入してコストダウンを図り、美味しい野菜を少しでもお求めやすい価格でお届けできるように努力されています。

畑を訪問すれば、そんなお話をたくさん聞くことができます。知恵や工夫には「なるほど!」と頷かされ、農業機械の動きを見ると「よくできてるな〜」と関心させられます。
これはぜひ、お野菜を使われる皆様にもお伝えしたい!と、そんな知恵や工夫や努力の一端をご紹介してまいります。

有機農業の知恵と工夫

防虫ネット

無農薬栽培でも無肥料栽培でも、量の多少はあれ、やっぱり野菜に虫は寄ってきます。発芽したばかりの苗を穴だらけにされてしまうこともあり、そのまま枯れてしまうなど大きな影響がでます。特に苗が小さい間は、できるだけ虫に食べられないことに越したことはありません。

そこで登場するのが防虫ネット。家の網戸と一緒ですね。

防虫ネットは比較的多くの農家さんで使われています。
今回はいとう農園さんの取材で撮影させていただきました。

3枚とも同じ日に、いとう農園の中で撮影したものです。
野菜の品種や、それに集まる虫にあわせて、網の素材や目の細かさなど使い分けられているのがわかります。

この写真、わかりますか?ゴマ粒のように見えているのは、マルトビムシという虫なんです。
どこか侵入できるところがないか?と地面付近を探っているのかもしれません!?
マルトビムシは小松菜やカブなどのアブラナ科に付く虫で、他にもキスジノミハムシ、ダイコンハムシなど0.5mm〜3mm程度の小さい虫がアブラナ科には付きやすいので、春先は一番目の細かい不織布を防虫ネットとして使用します。光は通しますが、風はあまり通さないので、保温と防風の役割も果たしています。
気温が高くなってくると、不織布では蒸れやすくなりますし、苗もある程度は成長しているので、0.8mmなどの防虫ネットに変更して風通しを良くします。

防虫ネットひとつにしても、色々と工夫されながら使われていますね。

香りのバリア

次に、虫が嫌がる匂いを使って、虫除けするものです。
ニーム(Neem)という植物の種から絞ったニームオイル(ニーム油)には、昆虫の食欲を減退させたり、成長を阻害したりする効果があり、その匂いにも昆虫忌避の効果があります。

ニームは、インドや東南アジアで育つ熱帯樹木・インドセンダンの英語名です。昆虫に対しては摂食阻害、成長阻害、忌避の効果がありますが、植物や、ミミズなどの土中生物、それに人間を含む脊椎動物には無害で、抗菌作用もあるため、インドでは古代から薬、歯磨き、虫除けとして利用されてきたものです。

静岡県・南伊豆のマザーアースクラブさんでは、このニームオイルに浸した縄でアボカドの苗木を囲み、虫除けとして利用しています。
実際にこの縄を嗅いでみると、意外にも機械油のような匂いがしました。
マザーアースクラブの石川さんによると、すでにオリーブの苗木で試してみて、効果があったということです。

イモ虫を減らす・ハニートラップ

「夜盗虫(ヨトウムシ)」写真出典:HORTI

そして、匂いの応用編です。

オーガニック栽培では多少の虫食いは避けられません。食われた外葉だけ掃除して出荷できる程度なら許せますが、洒落では済まない被害が及ぶ場合もあります。特に夜盗虫(ヨトウガの幼虫であるイモ虫)などは繁殖力が強く食欲も旺盛で、放っておくと葉脈だけ残して食べ尽くされることもしばしば。
いくら自然に優しい有機農家さんでも「野菜全滅・収入ゼロ」は困ります。

そこで登場するのが「フェロモントラップ」なんだか妖しい小悪魔のような名前ですね。(写真真ん中の赤い縄)
風の丘ファームさんで使われていました。

長年の研究によって、蛾の種類ごとにメスがオスを誘うフェロモン物質が特定されており、それを塗ったシートや縄を畑のあちこちに設置します。すると、なんと言うことでしょう、オスがトラップの匂いに騙されて、本物のメスに出会えなくなってしまうんです。
結果、蛾の産卵が減り、翌シーズンからのイモ虫の発生が減る、という仕組みなんです。

「ラッキー!ここは女の子の匂いがいっぱいするぞ!あれ?でもまったく会えないじゃん!?」という生殺し、同じオスとしては非常に心苦しいトラップではありますが、殺虫剤のような強い成分はありませんし、その作物にとって困る特定の種類の蛾を狙って作用させられるので、環境への影響も最小限に抑えられる資材です。
イモ虫の大量発生を防ぎ、農園を壊滅的な被害から守ります。

益虫テントウ虫・垂直立ち上げ戦略

「アブラムシを捕食するナナホシテントウ」写真出典:ぁぃの飼育ブログ

続いては、さらに手の込んだ作戦です。

野菜に群がるアブラムシは、幹や葉に口針を挿し養分を吸い取ります。野菜を弱らせ、病気の菌やウィルスも媒介する厄介者です。
このアブラムシの天敵がテントウ虫で、せっせと捕食して数を減らしてくれます。

でもテントウ虫だってヒトのために働いてるんじゃありません。最初から空の畑でスタンバイしていてくれるわけもなく、アブラムシが増殖して「お?あそこに餌が!」と気づいてから畑に集まるので、どうしても最初はアブラムシの被害が出ます。植えたばかりの苗にとっては、大きな痛手になります。

そこで編み出された対策がこちら。風の丘ファームさんで実践されていました。

  1. 春先、ハウスで苗づくりをする時に、一緒に麦を蒔いておきます
  2. 成長の早い麦に、アブラムシが集まります
  3. そのアブラムシを食べに、テントウ虫がハウスに集まります
  4. そうして、苗づくりが終わる頃には、テントウ虫部隊の集結完了!
    畑に植えた苗に寄って来るアブラムシを、最初からしっかり食べてくれます

という作戦です。ハウスにはアブラムシも大量発生していますが、アブラムシは種類ごとに好きな植物が異なっていて、麦に付くアブラムシは野菜には害を及ぼしません。一方でテントウ虫は、アブラムシの種類に関係なく食べてくれるんです。
ちなみに2枚目写真の真ん中の黒いのはテントウ虫の幼虫で、この頃からしっかりとアブラムシを食べてくれます。
虫の習性を利用し、自然の力をコントロールする見事な知恵ですね!

農機すごいぜ!

オーガニック野菜が一般の野菜に比べて高くなってしまう理由の一つは、育てるのに手間がかかること、つまり人件費の多さです。その手間を減らすために、農薬や化学肥料は使いませんが、その他の環境に負荷をかけない部分では何とかしようよ!と、農業機械を導入する農家さんがいらっしゃいます。少しでもお求めやすい価格で、多くの人に食べてもらいたい、という思いです。

そんな農家さんを取材して農機を見せてもらっていると、人の手作業を上手に機械に置き換えてあったり、複数の作業が連携する一つの小さな工場のようであったり、まるで「からくり人形」のようで、とても面白いんです。

その世界を少しずつご紹介していきます。動画多めで、ちょっと重いですがご覧ください。

玉ねぎ苗植えマシーン

玉ねぎを機械植えするよ!」と聞いて石井農園さんに行ってみれば、何ですかこれは?回転寿司ですか?

まぁ見てなさいよ、と動かしてもらったら、これが楽しい動きをするじゃありませんか。

苗をバラにほぐして回転する筒に1つずつ入れると、その下で上下しているコーンみたいなとこに落ち、そのコーンがプスプスと地面に植えながら進んでいきます。
では、もう少し詳しく見ていきましょう。

人手で苗をバラしながら、1本ずつ筒に投入します

全部の筒に漏れなく入るよう、2人でチェックしながら入れていきます

それが一本ずつ下のコーンに落ちていって(スローでご覧ください)

コーンが下がって地面にプスっと苗を植えます

スローで見てみましょう

コーンの先端が地面に穴をあけ、そこに苗を落として植えていきます

白い車輪は、機械を支えるものではなく、植えた苗に土寄せをするためのパーツです

 

この調子で、一度に4列(4条)ずつ植えながら進んで行く機械です。
今回は、白玉ねぎの苗を植え付けました。仕上がりもきれい!

上部の回る筒(回転寿司)に1本ずつ漏れなく苗を入れないといけないのですが、回るのが意外と早くて大変です。この日は石井農園の石井さん(写真の上下濃紺の作業着の人)の他に、埼玉県立農業大学校の学生さんが2人お手伝いにいらしてましたが、オジサン3人が「あ、そこ苗入ってないよ!」「やべぇ追い付かねぇ!」と作業する姿は、なんだかすごく楽しそうです。

端まで植えた後は、人の目で抜け漏れをチェックしたり、倒れてしまった苗を直したりしながら戻って、次の畝に移ります。

石井さんによると、50mの畝に4条植えの場合、手作業だと2人で1時間かかっていたものが、この機械を使うと2人で30分で終わるそうで、機械の操作に慣れたらもうちょっとスピードアップできるんじゃないかな、ということです。

単純に時間の比較で2倍、それだけでも凄い効率化なんですが、機械の座席に座ったまま、あるいは横で立ったままの姿勢で作業できるのが、とても嬉しいとのこと。
手作業の植え付けだと、しゃがんだり中腰だったりの姿勢が続き、足腰への負担が非常に大きいんです。

従来は、畑1枚を植え付けるのに、朝から晩までかかって精根尽き果ててたものが、機械なら1日に畑2枚でも3枚でもいけそう!これから生産量を増やしていきますよ!という石井さんの力強いお言葉をいただきました。
楽しみです!


いかがでしたか?

畑には、まだまだ面白い知恵や工夫がありますので、順次、取材してご紹介してまいります。
続編をお楽しみに!