有機農業の生産者の方々からディープなお話を伺う企画の第3弾です!
オーガニック野菜との向き合い方、また有機農業の未来など、多方面に語っていただきます。
今回は、石井農園の石井慎也さんです。
埼玉県の北部、群馬との県境に近い平地で、自然栽培を10年続けている若者です。お若いですが、作る野菜は質、量ともに見事なもので、弊社の商品ラインナップを支えていただいています。
野菜の作り方や、売り方の話はもちろん、若者ということで、農家さんの恋愛事情なんかも聞いてみました。
前後編・2回に分けてお伝えします。
【石井】石井さん
就農から経営が安定するまで
― まずは農業を始めたきっかけ、特に有機農業にした経緯を教えてください。
【石井】高校生の時に農薬の健康被害を受けたことがあるんです。たまたま隣で畑をやっていた農家さんが土壌消毒の薬品を撒いていて、それが家に入ってきたみたいで、家族全員が体調を崩すということがありました。それで、農薬を使う農業に疑問を持つようになりました。
そして高校3年生で進路を考える時に、母から自然農法を教えてくれる大学校があるよって教えてもらって、体験入学に行ってみたら、やっぱり環境もいいですし、食べ物は美味しいし、そういう農業をやりたいな、と思いました。
それで高校を卒業してすぐに大学校に行って、2年で戻ってきて就農しました。
― 最初は、農地はどうしたんですか?
【石井】親が持っていた土地が1ヶ所と、親戚が声をかけて借りてくれたところと、あわせて5反からスタートしました。
― じゃあ最初から有機農業なんですね。野菜の種類は、何品目ぐらいから始めましたか?
【石井】40品目ぐらいですね。今とほとんど変わんないです。
― 機械とか設備はどうしたんですか?
【石井】ばぁちゃんが、ちょっとだけ畑をやっていて、ネギをいくらか農協に出していたり、ブロッコリー作ったりしていたんで、トラクター1台と管理機(編者注:手押しの小型耕うん機)2台、あとネギを剥く機械はあったんです。
実家住まいで、実家の物置とばぁちゃんちの物置も使えたので、投資が必要だったのは、自分で買い足した機械が少しと、軽トラックぐらいで済みましたね。
― なるほど。その最初の資金はどうしたんですか?
【石井】自分の貯金と、昔からのお年玉、親が預かってたのが戻ってきたのと(笑)
あとは親が少し出してくれました。これで独立しろ、あとは親の援助はないよ、みたいな感じです。
― 最初の販路、売り先ってどうしてたんですか?
【石井】1年目は直売所でやってみて、全然売り上げが出なくて(笑)
― ちなみに1年目の売上ってどれくらいだったんですか?
【石井】年間売上50万円です(笑)
― それは、なかなか、、、途方に暮れますね。
【石井】まぁ駄目ですね。こりゃマズい。直売所では全然売れなかったです。
でも、今だったらもっと直売所でも売れるなっていう気はします。
― それは、今なら品質の良い野菜が作れるようになったということですか?
【石井】品質の問題もありますが、やっぱり直売所に並べるのでも、売れる時期と、品目と、やっぱり狙い目っていうのがあると思うんですね。それがわからなかった時期に、いきなり直売所に出しても、周りがけっこう安い中で埋もれちゃいますね。
― その後はどうしました?
【石井】上里の農協に、有機JAS部会というのがあって、その部会に先輩たちが入って有機栽培で枝豆作って共同出荷していて、じゃあ自分も自然農法で枝豆を作るんで、一緒に出荷させてもらえませんか、ってお世話になるようになりました。
― なるほど。
【石井】最初は枝豆だけだったんですが、そのうちに有機を買ってくれる業者さんとも繋がりができてきて、冬にほうれん草とかいかがですか?ってアプローチも出来るようになったんですよね。
業者さんも良いんじゃないの、って言ってくれて、冬に枝豆の裏でホウレン草をやって、少し収入になって、ってそれが2年目でしたね。
― ちなみに2年目の売り上げは?
【石井】2年目は倍になりました。倍でも年間100万円ですけど(笑)
― まだまだ大変ですね(笑)
【石井】その次は、ネギも取ってくれるって言ってもらえて、うちは元々ばぁちゃんがネギ作ったりしてたんで、やってみようって。それで3年目は、枝豆、ホウレン草、ネギ。
そうやって、量的に売れる品目をちょっとずつ増やしていくことができました。
― 今で10年目ですよね。だいたいこう、これで生業として成り立つなって、自分で思えたのは何年目ぐらいですか?
【石井】5年目ぐらいですね。労働力は自分とばぁちゃんの2人で、畑の面積は2町歩ぐらいだったと思います。
段々と売上が上がってきて、2人でやるならこれくらい必要かなって目安にしてたところを超えられました。利益だけで考えると、その時が一番残ってたかもしれないです(笑)
でも自分とばぁちゃんの労働力だと、その面積が限界だったかな。
― なるほど。でもその時って、1つの分岐点ですよね?
より大規模にしていこうっていう方向と、1人や2人でやれる範囲でボチボチ続けていこうっていう方向と、ありますよね。その時にどういう風に考えましたか?
【石井】ちょうど考えているその頃に、8反ほどの耕作放棄地があって、使ってくれないかって言われたんですよ。元々、畑を増やしたい思いもあったので引き受けました。それを合わせると3町歩ぐらいになっちゃうし、もう人を増やすしかないと思いパートさんを入れることにしました。そしたら畑が増えて、また人を入れて、という感じになり現在に至ります。
― 結婚されていますよね。奥様の農業への関わりは?
【石井】最初は一緒に動いてたんですが、すぐに子供ができて、そこから2年に1人のペースで合計3人生まれたので、もう、畑を手伝うどころじゃなかったです(笑)
ようやく最近、子供が全員保育園に行くようになって時間が出来たんで、畑に出ない作業、出荷をやってもらっています。
― なるほどなるほど。
【石井】自分も無理して畑に出なくていいよ、とは言うんですよね、大変だから。出荷の方をやってくれれば問題ないからって、注文の取りまとめやってとか。そういう感じで分担して。
― なるほどなるほど。注文のやり取りとかも大事ですもんね。
【石井】大変です。やっぱり。集計したり色々、あるんで。
農地の増やし方 条件が悪い畑に対応する工夫
― 今は何人ぐらいでやってるんですか?
【石井】パートさんが5人位です。
― 面積はどれくらい?
【石井】今は9町歩。
― すごい!あれ?去年より増えましたよね?
【石井】この春から耕作放棄地を再生して、大豆作る場所が1町歩増えましたね。
緑肥を作ったりする所もありますけど、どこも1年に1回は何らかの作物を作るくらいで回してます。半分くらいが大豆です。
― そんなにやってるんだ!麦とか蕎麦もやってましたよね?
【石井】麦とか蕎麦は、大豆の裏なので、面積的には大豆のところに入っちゃうんです。あと米が8反くらいあるので、5.5町歩が穀物で、残り3.5町歩が畑ですね。
― すごいですね!今後は、畑と穀物と、どっちを増やすつもりですか?
【石井】そうですね、どっちもです。新しく借りられるところが、どんな土地でも対応できるようにしたいんです。
水はけがイマイチとか、水利がないとか、条件が悪いところでも、面積が広ければ、大豆ならある程度勝負できるんです。
そうやっていく中で、もし、すごくいい土地が来れば野菜を作ります。
― なるほどなるほど。耕作放棄地をなんとかしてくださいみたいな話って結構来るんですか?
【石井】条件が良くない土地だと、時々あります。
消防団の先輩と飲んでいる時に「草ボウボウのすげー場所があってさ、どうにかならないかね~、お前やったら~?」っていう話があって、よく聞くと、自分と同級生で農業委員会の事務局やってたやつの家の近所でした。
で、同級生と話をしてみると、三角形の土地で、全体では1町歩ぐらいあるんですけど、小さい畑の集まりだったんですよ。その1個1個が放棄地になってて、どこが誰の所有地かもわからないような状態。その一部は同級生の家の畑でもあって、彼も何とかしたいと思ってたんです。
ただ、これがブチ抜きで1枚の畑として使えるなら、大豆作るにはもってこいなので、彼には「全地主がウチに貸すっていう話を取りまとめてくれたら、俺は借りるぞ」って言ったんです。同級生だから腹を割って、俺はやるから、お前も仕事しろよ、って。そしたら、話がまとまったんですよ。
― ちなみに、地主さんは何人ぐらいいました?
【石井】十数人。
― すごい!その同級生、頑張りましたね!その手の話って、なかなかまとまらないのに。
【石井】そうなんですよ。個人で農地の集積をしちゃったパターンです。
ただその地区は、もう長いこと、みんな何とかしたいけど、誰もやり手がいないって、困ってたみたいなんです。元から水利がなくて、米は作れない場所でした。それに、この地域はいい砂利が取れるんですが、その畑からも取っちゃったんですよ。砂利を取ると水はけが悪くなるんで、野菜農家も嫌がるようになって、誰も借りずそのまんま来ちゃったと。だから、もう地代もいりませんからどうぞ、って言われましたが、いちおう地代は払いますと、かなり安い地代で10年の長い契約をさせてもらいました。
そういう所でも借りないと、上里では畑を集めにくいですね。
― 耕作地が余ってないんですか?
【石井】余ってないですね。条件の良いところは、みんな既に大きい農家さんとか法人とかが借りちゃってます。
― この辺は、東京も近いし、物流とか考えると便利ですもんね。
【石井】それに、獣が出るわけじゃないですし、物が作りやすいんです。ハクビシンとタヌキはちょいちょいいますけど、でもちょいちょい位なんで、畑が全滅することもないし、それくらいはまぁしょうがないか、って言えるレベルです。
― 近くに山とかないですもんね。
【石井】基本的に平地だし、畑は四角いし、水も出る、って農業やるには条件が揃ってるんです。なかなか農地が空かないので、借りられる時は、条件悪くても無理してでも借りるようにしています。
そういう土地で、とりあえず試しに作ってみて、ってできるのが大豆なんです。この土は水はけがいいのか悪いのか、地力あるかないかとか、いろいろそういうのを試せます。
― はいはいはい。
【石井】もし駄目だったとしても、大豆だったらそんなに痛くはないんですね。そのまま潰しても、次の作物の肥やしになります。
― なるほど!
【石井】いきなりネギとかを作ってみて駄目だったら、ダメージが大きいですよね。だったらリスク低い作物で、土作りになるようなものを作りたいですね。
経営は現場で学んだ
― 今、パートさん5人いらっしゃいますが、人を雇うって当然、経営をやっていくわけですよね。経営はどうやって学びましたか?独学?
【石井】体感ですかね。1人雇ってみて、こんな感じかな、と。
― やってみて、じゃお金はいくらかかる、こんな手間がかかる、労務管理とか時給の計算をしないといけないし、いろいろ出てきますよね。
【石井】いろいろ大変なこと出てきますよね。で、その先にさらにもう1人増やして、どうなるか、じゃあもう2人増やしてどうなるか、っていうことの繰り返しできましたね。
― なるほど。
【石井】ある時に入ってきた人が、所用で1週間休みます、って頻繁にする人で、そうなると当てにしていた労働力がなくなるのがどれ程大変な事かよく分かりました。
経営って、難しいですよね。
― そうだよね。
【石井】まだ自分は、人を雇い始めて3年くらいですが、様々な人が出入りをして色々勉強させてもらってます。
― そうだよねー。色んな人がいるからね~。
目指すは共同出荷と農家の「学校」
― 将来的に、例えば10年後に、自分の農園がこういう姿になってるといいなーというのはありますか?
【石井】もっと面積を増やしていきたいんですけど、自分1人でやるよりも、仲間と一緒にでかい面積をやりたいです。1人1人の経営は、小さいほうが効率的だと思います。
なるべく小さい経営にしておきながら、じゃあ1人1町ぐらい何か作りましょうって言って、10人集まれば10町歩の面積で同じものが出来るってなると、すごい強みのある組織だと思います。それで物を売っていくスタイルが理想と考えてます。
― なるほど。
【石井】それには新規就農者を増やしていかなきゃいけないんで、それをうちが受け入れをして、うちから出てってっていうのがやれればいいなって思ってます。1年に1人増えていけば10年後には10人っていう、ぐらいで。
うちが受け入れた人は、3年かけて出てくようにしたいんです。1年生2年生は3年生の話を聞いて、3年生は農場長で、通年で農園を回す経験をして卒業、そして次は2年生が3年生になって農場長に、というのが良いんじゃないかなーって考えてます。
― 3年の学校みたいですね。
【石井】はい。「現場3年」って言う人もいますし、ずーっとこっちから言われたことだけをやって、それで独立するのとは違って、いい経験ができると思います。
― どんな仕事でも一緒かもしれませんが、起業するとなると、自分が置かれている環境、いわゆる気候とか、どんな畑とかだけじゃなくて、農協に属せるとか属せないとか、自分の得意不得意とか、そういうのを総合して、自分に一番合ったスタイルを作り出さなきゃいけないですよね。
【石井】そうですね。ホントに農協に言われたように肥料入れて、言われたように出荷する分には、誰でも出来ちゃうんですけど、そことはちょっと違うんで。
― 違いますよね。慣行(編者注:農薬や化学肥料を使う一般の栽培方法)でも、ちゃんとした美味しい物を作れる人って、自分で工夫してるだろうし、たぶん農協から言われた通りにやってないと思うんですよ。
【石井】そうですね。
― だからこそ、ちょっと高く売れたりとか、そういう風になってくんですよね。
有機野菜の適正価格を考える
― 有機農産物の流通量って、まだまだ少ないし、有機農家さんも増えてほしいと思うんですが、急に増やせるものではありません。新規就農者を増やすこと自体は比較的簡単かもしれませんが、農業収入で生活できるようになるまでには時間がかかるし、そこを応援することが必要だと思います。
ただ、単に補助金をあげるのも違うと思いますが、何が大事だと思いますか?
【石井】販路だと思いますよ。慣行と有機で大きく違うのは、作った時に、全部買ってくれる先があるかないか、です。慣行の人たちは農協に持っていけば、安かろうが高かろうが、値段がつくんですよ。それにB品まで買ってくれるんです。安いですけどね。
でも有機の業者さんは、A品しか買わないとか、欲しい量だけしか買わないとか。その注文に応えるために、畑では多めに作るんですが、じゃあ注文以上に取れた分はどうするの?ってなるんですよ。そこが収入になるだけでも、随分違うんじゃないかなって思います。
― 耳が痛い話です。
【石井】慣行の野菜と一緒に並ぶような、スーパーや直売所でもいいですから、量に関係なく取ってくれるところがあると、残ったものをそこに出せるんですよ。今まで捨てるしかなかったものが、安くても売れたら、それだけでもうプラスなんです。
何ヶ月か前から、注文の見込みを当てにして育て始めなきゃいけなくて、でも注文来なかったねって言われたらパーになる。今までパーだったものが、少なくてもお金になる、それがあると、チャレンジもやりやすくなります。
― なるほど。
【石井】生産者も、そういう出し方を考えるなら、慣行の野菜と一緒に並べても、品質と価格で勝負できなきゃいけない。そうすると、すっごいこだわりのものを作って高く売ろうっていう風にはなってこないんです。
例えば慣行が80円で売ってたら、有機のところに持ってい問題ないレベルの野菜を、80円の生産コストで作れないかな?って考えるんです。有機の業者には、それなりの価格で買ってもらえばいいし、その余りでは、稼ぐことはできなくてもトントンでつなげればいいと考えると、慣行と同じ価格で、より美味しいものが並べられるんですから、勝負になりますよね。
― マザーアースクラブの石川さんと同じ考え方ですね。
(編者注:石川さんのお話しは こちら の記事でご覧いただけます)
【石井】はい、そういうところは、やっぱり近い話になりますよね。
― 値付けから品質、それに品目や出荷時期の問題も含めて、何が自分たちの優位性なのか考えて、ロジカルに選ばれてますね。就農といっても起業と同じなので、必要な話なんですが、その辺のところは新規就農者に教える人が少ないですよね。
【石井】そうですね。作るのは、なんとかなるんです。作れるんです。それより売るほうが大変です。
直売所に行ってみる、農協を通してみる、個人でネットで直売する、安くても量がさばける、そういう色々なチャンネルを持ちながら、何が一番いいかって考えるといいと思います。
取材日: 2017/06/11
後編「有機農家の適性と嫁問題」に続きます。
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