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代表・松野が聴く!生産者・加瀬さん 前編 – 有機栽培と肥料の深い関係 –

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代表・松野が聴く!生産者・加瀬さん 前編 – 有機栽培と肥料の深い関係 –

代表・松野が聴く!生産者・加瀬さん 前編 – 有機栽培と肥料の深い関係 –

有機農業の生産者の方々からディープなお話を伺う企画の第4弾です!
オーガニック野菜との向き合い方、また有機農業の未来など、多方面に語っていただきます。

今回は、加瀬農園の加瀬嘉男さんです。
千葉県東部、成田空港にも近い平地で、20年以上有機栽培を続けていらっしゃいます。「加瀬農園のニンジン」と言えばその名を知る人も多く、都内一流ホテルでも使われる逸品ですが、その作り方は意外なもの。
実はオーガニック農家の間では「肥料をなるべく使わない方が美味しい野菜ができる」と考える人が多いのですが、加瀬さんはその反対に、大量の肥料を使って土作りをした畑で、スッキリ美味しいニンジンを生産されます。
今回の対談では、その土作りと美味しさの関係について、特に深く突っ込んで伺いました。

聞き手は、弊社代表の松野と、新川、大西です。

前編・後編、2回に分けてお伝えします。

【加瀬】加瀬嘉男さん

【松野】弊社松野
【新川】弊社新川
【大西】弊社大西

人との出会いから有機栽培の道に

【松野】まず加瀬さんが有機農業を始めたきっかけを教えてください。

【加瀬】俺のきっかけはホントに簡単なんだよ。人との出会いかな。
うちは明治に千葉に入植してきた農家で、俺で4代目。元は農協に入って、ニンジン、サツマイモ、大根、麦、落花生って作ってたよ。
ただ23、4年前かな、40歳手前の頃に、農協以外の販路を作らないとな、できなかったら俺は一生今のままかな、と思うことがあって。そこから生協の関係とか、いろんなところと付き合ってみたんだよ。けど、どこも農協を抜けるほどの魅力はないっていうか、ちょっと踏ん切りが付かなかったんだよ。
その頃に、ある人から今のデコポン(編者注:千葉県の有機野菜生産者連合)の社長を紹介されて、それがきっかけかな。

【松野】なるほど。

【加瀬】その社長が「流通改革をしませんか」とかなんとか言うわけよ。その頃の俺は、まぁ深く考えてもいなかったし、流通改革なんてのは上の人がやるもんだ、って(笑)
でも、かなり人の良いやつって感じしたし、何か引っかかるものがあったんだよね。で、ひとつ入ってみるかと。

【大西】そこで有機になるわけですね。

【加瀬】デコポンの基本的な考え方は、化学肥料、除草剤、農薬を使わないってことで、俺もそれを始めたんだよ。一気にやらないよ、少しずつ増やしてきたんだけど。
その中でね、みんな(編者注:デコポンメンバーの先輩有機農家)いろいろ教えてくれるんだよ。技術的なこととか考え方とか。農協でやっていた頃は、意外と教えてくんなかったね。
開拓したっていうか取得した技術っていうのは、みんなに広げることによって、みんながいいものを作って、自分はさらにその上を作ろうって努力するって、理にかなってるって思ったね。ある時ね、今でも仲良くしてる人だけど「農協と全然違うね」って言ったら「加瀬、おめぇ今頃それわかったのか」って言われて(笑)

【松野】なんか良いですね。

【加瀬】そんな中で2001年かな、有機JAS認証の話があって、基本が農薬、化学肥料を使わないってことだから規格に合致するわけで、まず105アール(編者注:約1町歩)から認証を取ったんだ。そこから増やしていって今は5町歩弱。

作り方は教えられても真似はできない – オリジナリティと人間性が野菜に出る

【加瀬】でも最近ね気がついたんだけど、あの当時、俺に教えてくれていた人らも気がついていたんだろうけど、作り方って教えても真似することできねーよな。

【松野】はいはいはいはい。そうでしょうね。

【加瀬】いや、もちろんね、俺の野菜よりも美味しい野菜は、いっぱいあると思ってるからね。そういう前提で話してるからね。

【松野】うんうん。

【加瀬】俺の真似しても俺の味は出ないよな。俺だから出せる。
具体的にいうと俺の中にいっぱい引き出しがあって、その引き出しから、これとこれを選んで、こうやりましょう、それが、無数にあるわけだよ。それを無意識のうちに使ってると思うんだよ。その中でこの味が出てくるんであって、それを真似しようとしてもたぶんね、俺の味は出ないと思うんだ。
一方で、その俺の味を、好きな人もいるわけだ。だから、美味しさってなんなのかね?その人だから美味しいって感じるのかもわかんないし、俺の野菜だから美味しいのかもわかんないし…うん、最近そんなこと考えてるようになってきた。

【新川】なんか両方な気がします。
【松野】うん、人間性って出るよね。

【加瀬】たとえば、俺ね、最近好きになった歌手がいるんだよ。新沼謙治。彼の声はいい、癒される。だけど、俺だけかもわかんない。なんてのかな、同じメロディーで同じ歌詞で歌ったとしても、その人の人間性が出るような気がすっだよ。
野菜もね、昔よく農業はアートだ、だなんて言う人がいたけど、俺は聞いた時は理解できなかっただよ。でも同じ歌でも歌う人によって、お客さんに伝わる感動が違うように、野菜も種蒔いて草取りして収穫って同じような工程でやったとしても、俺が作ったものと別の人が作ったもの、違うと思うんだよ。だから俺が作ったものを美味しいって言ってくれるんだよね。たぶんね。最近そのように理解するようになったんだよ。

【新川】わかります。野菜も生き物ですから、やっぱり気持ちが通じるっていうか、何かあるんですよね。

【加瀬】そうそう、気持ちあるよね。最近ね、そういうの絡めて考えるようになって、徳を減らさないように思ってるよ。例えばね、無駄な殺生はしないようになってきた。その徳がなせる技っていう感じ、なんか味もね、以心伝心じゃないけど、あるような気がすっだよなぁ。なんか哲学的になってきたね(笑)

【新川】良い話ですよね。

【加瀬】天候にしても計算通りいかないのが野菜づくりなんで、例えば、8月にニンジンの種を蒔くんだけど、蒔いた直後にゲリラ豪雨が来たら、パァなんだよな。なるべく避けようとしてるんだけど、計算できねーよな。最近、そんなに被害ないんだけど、それもね、やっぱり徳がある人と無い人ってやっぱりあるような気が、俺それ信じてるんだよ。

加瀬流の土作り「俺は」こうする

【加瀬】だんだん有機やってく中でいつの頃か忘れちゃったけど、美味しいものを作ろうっていう。自分でね、美味しいものは安全だ、みたいな感じでね。年々美味しくなってるって声もあったんで、美味しさを追求する方に。ただ俺タバコ吸うんで、自分の舌はあんまり信用してねーんだよ。畑に来た人に、その場で食べてもらって「美味しい」って言われたら「ホントに?」って必ず言ってたんだから(笑)
でも8年くらい前からかなぁ、自分で食べてみても、やっぱり旨いなぁって思うようになって。年々美味しくなってるんだってのが、実感としてあるね。

【松野】美味しい野菜を作るのに一番大事なのって、何ですか?

【加瀬】土だね。

【松野】その土を作る時に大事にしてるものとか、こだわってることって何でしょう?一言では言えないと思いますが…

【加瀬】うん、一言では言えない。まず良い土と悪い土の違いなんだけど、良い土っていうのは生き物、バクテリアがいっぱいいるんだよ。で、バクテリアを増やすには、炭素の投入なんだよ。堆肥は、畜糞に落ち葉とか籾殻とかチップ(編者注:破砕した木材)とかバーク(編者注:樹木の皮)とか入って炭素含有率が高いものを使ってる。その籾殻とかチップとかを分解をするのが畜糞の役目だと思ってるんだよ。それを炭素投入っていう考え方で、どんどんどんどん畑に入れてって、バクテリアがいっぱい増える。

【松野】はいはい。

【加瀬】その中で気がついたのは、バクテリアがいっぱいいる畑といない畑、の見分け方なんだけど、いっぱいいる畑だと土がザラザラになってくるんだよ。まぁ団粒構造って言葉で表されるんだけどね。
それとは別に、砂糖みたいにふわ~っとした土、これももちろんバクテリアはいるんだけど、やっぱりザラザラよりは少ねーだよ。
ただ俺、科学者じゃないから、科学的に分析したわけじゃないけど、ザラザラな畑は失敗しないんだよ。種蒔いたら発芽率もいいし、できたニンジンの揃いもいいし、味もいいしね。そういうのをみてこの土だなと決めて、その土にするように、ずっとやってきた。

【松野】うんうん。

【加瀬】これを俺は飛行機に例える。滑走路離陸して、上昇して水平飛行に行くまで、これが炭素投入だと思ってる。水平飛行になって安定してきたら、まぁそれでも飛ぶには燃料食うよね、そこで微量でいいけど、ミネラルとか炭素を投入して、それで維持するみたいな感じだ。
もう一つは輪作体系、その二本立てでちゃんとした管理をすることにより土壌って熟成していくんだよ。

【松野】なるほど。

【加瀬】糠味噌の糠床ね。糠床って1年目でも漬物が作れるよね。でも35年物の糠床って、俺食べたことないけどね、それと比べたら、たぶん味違うと思うよね。それと同じで土壌もね、熟成して年数重なれば、野菜のクオリティがあがってくるのかなって。これ仮説だけどね、たぶん間違ってはいないと思うんだよ。

【松野】あぁ!なるほど。

【加瀬】これは自分の経験の中から、誰に教わったわけでもなく、結果論かもわかんないけどね。有機農業、どんな職業でもそうだと思うけど、人の真似は成功しないよな。最初真似てもいいけど、オリジナリティっていうか、そういうのをやっぱり見出していかないとダメだな。
まぁ俺もそこまでの考えは無かったんだけど、自然とね、自然と。だから得な人間だよね。自然となっちゃった要因の中には、いろんなお客さんとか、人との出会いもあっかもわかんないし、野菜から教えてもらったこともいっぱいあるよな。

【松野】うんうん。

【加瀬】野菜が俺を育ててくれたみたいなところがあんだよ。俺ホントにそう思ってる。だから、俺は野菜を育てるけど、野菜が俺を育ててくれたみたいな。まぁ育てるのは土が育ててくれたんだけど(笑)

【新川】でもその土を作ってるのは加瀬さんですよね。

【加瀬】まぁ作るというか、ちょっと、ちょっとだけお手伝いね。こういう謙虚な人間になっちゃったの。昔は「俺が」っていう人間だったの。それが「俺は」って段々なってきたの。「俺はこうだから」って。
だからさっき、こだわりってさっき出たけど、俺みんなこだわってると思ってるからね。農薬使ってる人もこだわってるし。

【松野】そうですよね。

【加瀬】俺もこだわってるし、みんなこだわってるからね。よくね、有機農業とか無農薬始めた人、もう「俺が俺が」って、俺がこだわってるんだ、って言ってる奴はまだ中途半端だからね。

【松野】はいはいはいはい。

【加瀬】その域を超えるとね、みんなこだわってるって認めるんだよ。ただこだわり方が違うねって。で、俺のこだわりを選んでくれるお客さんがいるわけだ。それを一人でも多く増やしましょうって。
でも農薬、除草剤、化学肥料にこだわってる農家を選ぶお客さんもいるわけだから、それはそれで立派なことだと思うしね。だから俺が上であっちが下だ、なんてこともないし、今はホントにそう思ってる。だからすごい幸せ。

土作りは7年 – その後も年々熟成するもの

【加瀬】でね、土が安定するまでは、7年だと思ってるんだよ。確信はなかったんだけど、別々の2~3人のお客さんからも「7年」って聞くことがあってね、一人はあれ?松野さんだったかな?

【松野】たぶん俺です(笑)

【加瀬】あ、そうだ(笑)

【松野】やっぱり他の農家さんでも「7年」ってよく聞きます。

【加瀬】聞くよね。もう一人は、女性のお客さん、いろいろ話してたらその人がね「加瀬さん、人間の身体は、内臓まで全部入れ替わるのって何年だと思いますか?」って。「7年なんですよ」って。「生命のサイクルで7年ってあるみたいです」って。じゃ俺が7年って言ってたの、あながち間違ってなかったかなって、ある程度確信に近いものを得たんだよな。

【松野】はい。

【加瀬】で、7年かかる中で、その堆肥をどんどん入れる途中でも取れる作物と、土ができてなければ良いのが取れない作物ってあるんだよ。ニンジンとか大根とか、土ができてなければ作れない。でも土作りをしながらでもできる野菜って、里芋とか、落花生とか、あとネギとかね、俺の中にあるんで。そんなのをやりながら、土作りをして、ある程度できたらニンジンとか大根にもっていく。だけど7年の間にやっぱり1回(ニンジン大根を)やってみたくなって、作っちゃうよな。だいたい失敗するわ(笑)

【松野】【新川】【大西】(笑)
【大西】やっぱり7年なんだ。

【加瀬】そう、やっぱり7年位はかかるな。まぁ10年あれば10年あった方が良いんだろうけど。そんな感じで俺は土を作って、だから急激にバァーっと良くなるわけじゃないんだけど、7年より8年、8年、15年、20年、って感じで徐々によくなる。それを確信したのは、今から5~6年前になるかなぁ~、お客さん来た時ね、ニンジン畑行って食べてもらって、で、俺も食べてみたんだよ。「え、うめぇ~っ!」って自分でも驚いたんだよ。それでね「熟成」っていう言葉、年々良くなってるなっていうのはそこで確信したんだよ。

【新川】本当に、糠床とかお味噌とかと同じような感覚ですね。


取材日: 2017/07/23

後編「加瀬流土作りが生まれた理由」に続きます。

代表・松野が聴く!生産者・加瀬さん 後編 - 加瀬流土作りが生まれた理由 -
代表・松野が聴く!生産者・加瀬さん 後編 - 加瀬流土作りが生まれた理由 -
有機野菜の生産者・加瀬さんとの対談後編です。 他の有機農家とは違う、堆肥を大量に使う土作り、その独特の農法の由来を掘り下げます。 自然に寄り添う農業では、その土地に合うオリジナルの農法が必要です。その考え方のヒントがここにあります。

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