有機農業の生産者との対談企画・第7弾、鈴木健之助さんの後編です。
前編 では、アスリートから新規就農した鈴木さんならではの経験と、経営の考え方について伺いました。
後編では、鈴木さんの「辛い仕事との向き合い方」ユニークな発想や考え方を掘り下げつつ、将来の夢について語り合います。
【鈴木】鈴木健之助さん
アスリート流 辛い仕事の乗り越え方
【鈴木】辛さっていうのは、やっぱりその、振り返ると辛くないですけど… 正直辛いっす(笑)
【鈴木】その時は、めちゃくちゃ辛いです。でもその瞬間瞬間に辛いって「感じ切る」っていうのも大事かなって。嘘はつかないっていうか、辛いのは辛いんで良いんですよ。それを繰り返して、後で振り返った時に「あ、なんか良かったな」って、そこに落ち着くっていうか(笑)
【全員】(笑)
【鈴木】うーん、なんですかね… そうですよね、ふつう何かありますよね。
【鈴木】あ、それは確かにありますね。ただ結果もそうなんですが、僕の中では過程がすごく大事で、過程の積み重ねが結果だと思ってるんです。
すごい辛い、って思っているのも過程で、そこを感じきる、ただ辛いから止めるんじゃなくて、辛いなら辛いで、その辛さを受け止めきるっていうところですね。
【鈴木】はい。ちょっと話はズレるかもしれないですけど「辛さの外し方」っていうのがあるんです。スポーツやってると、もうとにかくエンドレスで走るみたいな練習メニューもあるんですよ。
【鈴木】その時の身体の辛さに、真正面から向き合うと、めちゃくちゃ辛いんです。だから「体が辛いだけ、心は辛くない」って思うというか…
【鈴木】確かに筋肉痛とかで痛いけど、身体が痛いだけ、気持ちは全然違う所に置く、っていう「辛さの外し方」ずっと陸上をやってきて、それは癖がついているっていうのは、ありますね。
【全員】(笑)
【鈴木】終わった時にですね。全部が終わった時、あるいは1日が終わった時に、感じますね。
【全員】(笑)
【鈴木】ありますね!
【全員】(笑)
【鈴木】だから本当に今、改めて農業で良かったなって(笑)
【鈴木】だからまぁその、これから農業やりたいって、いろんな人が来てくれるんですが、流石に「自分のようにやれ」とも言えないですし…
そこの伝え方、指導の方法っていうのは、これから考えていきたいテーマだと思っています。
有機農業の輪作体系 そして小麦へ
【全員】(笑)
【鈴木】(笑)
【鈴木】今年から麦をやって、小麦粉で出してます。これを拡げていこうかなって思ってます。ズッキーニの裏作として作ってて、それで回していきたいなって。
【鈴木】今は南部小麦のみですね。中力粉から強力粉の間ぐらいの小麦粉ができます。
【鈴木】はい。地元のカフェとかに卸しています。小麦粉もそうですし、せっかく無農薬で作っているので全粒粉にもしています。引き合いは結構あるんですが、製粉がネックになって、生産が追いついていません。製粉業者が減っているので、わざわざ東京に送って粉にしてもらったりしています。
【鈴木】機械だけなら300万円ぐらいなんですけど、けっこうな高さの建物も必要になるので、トータルにすると、かかっちゃいますね。
【鈴木】はい。お米も作っているので、精米と製粉所を同時に持てれば一番いいのかなと考えています。
ある埼玉の農家さん、やっぱり野菜からスタートしたんだけど、今は大豆と小麦っていう人がいて、その方がおっしゃってたのは、野菜はある意味で、誰でも作れる、でも穀物は、設備が必要なので、プロの仕事だよね、と。それで、野菜に関しては「農業教室」っていう形で人を集めて、畑の一定の区画を生徒に貸して、作り方を教えていらっしゃるんです。将来的にはその方向で広げたいって。素人でも、そこそこは作れるし、自分で収穫して食べるなら、収穫後の選別も必要ないし、外葉取って捨てることもないでしょ?って。野菜の無駄は減るし、選別や袋詰めの労力も節約できるから、効率いいでしょ?って。一方で、穀物は設備も必要だし、一定以上の規模で作らないとコストが合わないから、プロがやるべき仕事として、そっちをやっていきたいんだよねって。
【鈴木】あぁ~、なるほど。
【鈴木】はい、はい。
【鈴木】そうですね。はい。
【鈴木】栽培は、そんなに苦労しませんが、収穫後の乾燥が一番大変なのかな。7月が刈り取りなんですが、ズッキーニの作業と重なっちゃうんですよね。それに雨が多い時期で予定通りに進められないし。
【鈴木】いえ、小麦が終わってからズッキーニは間に合わないので、1年ごとに畑を変えます。小麦の残渣(編者注:実以外の茎、葉、根や、規格外で出荷できなかったもの)を畑に鋤きこんでおくと、翌年のズッキーニ栽培の肥料なるんですよね。そして夏にズッキーニが終わった時に、またその残渣をハンマーナイフモアで粉砕して、畑に鋤きこんで、秋に小麦を蒔くっていう回転です。作物残渣が無駄にならないし、非常に良い土作りにもなります。
【鈴木】こうやって自分でやってみると、いろいろ分かることがありました。収穫した小麦を置いておくと虫が出やすいんですよ。ポストハーベスト農薬って問題になりますけど、確かに使わないと無理だろうな、とか。
【鈴木】しっかり乾燥させて、すぐ粉にして、冷蔵庫保存するんです。すると、虫は出なくなります。そうしないと厳しいですね。
【鈴木】リアルですね。もし小麦のまま保存するなら、ちょっと農薬をかけないと無理だと思います。それで、製粉の専門の人から聞いたんですけど、小麦を粉に挽く時に、籾とか茎の部分って完全には取り除けないらしいんです。それが一緒に粉になるんですね。だから、虫の予防とかで農薬を使う栽培だと、薬かけるのが穂の出る前だとしても、茎に付いてて一緒に微妙に小麦粉に入ってくるんだな、と。
【鈴木】だから小麦のアレルギーの原因って、もしかしたら微妙に入っている茎とか、それに付いてた農薬かもしれない?と。全部が全部じゃないでしょうし、純粋に小麦の成分がアレルギーの原因の人もいるとは思うんですけど。
いずれやりたい酒造り
【鈴木】ぶどうは良いかなっとは思ってますが… 結局ワインなんですけど。
【鈴木】そう(笑)
【鈴木】好きですね。うちの今年のスタッフに、ワイン用ぶどうをやりたいっていう子がいて、完全にその子に感化されました(笑)
【鈴木】醸造っていうのは、これから非常にやっていきたい部分です。栽培から、一本の酒っていう形になるのが、すごく魅力に感じます。
【鈴木】最終的にはそこですね。
【鈴木】(笑)
【鈴木】いや、もう、出来たら、です。出来たら(汗)
目指すは「発酵する場所」
【鈴木】そうですね。はい。
【鈴木】そうですね。ただ農業、ただ働く、ただ稼ぐ、じゃなくて、その中で楽しさだとか、何のためにやるの?とか、それぞれの人が自分にとって芯になるものを、一つでもいいから持てるような、そういうきっかけになる場作りをしていきたい思いがあります。僕がイメージするのは、寺田本家もそうですが「発酵する場所」
【鈴木】発酵するって、お米が独りでに変化するんじゃなくて、微生物や人間が関わって、環境を全てひっくるめての発酵なんです。それに僕の中では、持続可能なものも発酵だと捉えているので、お米作りをしていく中で、栽培の仕方や田んぼの環境を次の世代に残すっていう作業も、発酵だと思うんです。
【鈴木】全てにおいて「発酵=持続可能な形」っていうのを常に追い求めていて、追い続けることそのものも、たぶん発酵だと思うので、それがいちばんのテーマというか、ずっとやり続けたいことかなって思います。
【鈴木】そうですね。
月並みですが やっぱり継続は力なんです
実は僕、もともと続かない人なんですよ。転職も何度かしてきました。ただこの八百屋だけは続けます。自社で扱っている、農家さんが作ってくれる野菜を毎日食べていますが、毎回おいしいなって思うんですよね。単純な動機なんですが、それを食べ続けたいって、大事だと思うんです。
【鈴木】うんうん。
【鈴木】ああ、それは、絶対続きますね!
【全員】(笑)
【鈴木】うんうん。
【鈴木】はい。
【鈴木】そうですね。
【鈴木】疑問がなく、ただ安い方を、カゴに入れちゃうっていうか。
【鈴木】しっかり内容をとらえるっていう、その工程が、大事ですね。
まぁ、自分を振り返ると、そんな大層な変化はしてないんですけどね(笑)
【全員】(笑)
【鈴木】いやいや、それはぜひ続けてください。
【全員】(笑)
【鈴木】晴れてるとね、すごい良いですよ!またぜひ来てください!
取材日: 2017/10/29
今回の対談は、ここまでです。いかがでしたか?
前編 でも、ディープなお話を伺っています。併せてご覧ください!
けんの農醸・鈴木さんのお野菜は ビオシェルジュ で注文を承っております。(季節により、取り扱いがない場合もございます)
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