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代表・松野が聴く!生産者・田下さん 後編 – 農家の育て方を考える –

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代表・松野が聴く!生産者・田下さん 後編 – 農家の育て方を考える –

代表・松野が聴く!生産者・田下さん 後編 – 農家の育て方を考える –

有機農業の生産者との対談企画・第5弾、田下隆一さんの後編です。
前編 では、改めて農村の役割について考えながら、現実の農村の状況について伺いました。

後編では、その農村の役割を担う農家を、いかにして増やすか、その現場での取り組みについて伺います。農政に関わる方には、ぜひご一読いただきたい内容です。


聞き手は引き続き、弊社代表の松野と、新川、大西です。

【田下】田下さん
【松野】弊社松野
【新川】弊社新川
【大西】弊社大西

農家を増やすには? – 補助金の功罪

【松野】ここ数年くらいでは、新しく農業をやりたいと、田下さんのところに勉強しに来る方は、増えてます?減ってます?

【田下】景気が良くなったせいか、少し減ってるんですよ。「新・農業人フェア」って、農家をやりたいっていう人達を集めるイベントがあるんですけど、あれの入場者も減ってるし。
やっぱり不景気の時は凄かったんですよね。

【松野】そんなもんなんだ(笑)

【田下】不景気の時はもう、仕事は無いか、じゃあ農業をって感じでした。赤ちゃんを連れたお母さんも一緒に来てる、っていうのもありました。
今は東京あたりで給料取れるので、ちょっと減ってますね。

【松野】そうなんですね。

【田下】それと青年給付金(編者注:青年就農給付金(現在は「農業次世代人材投資資金」に変更))っていうやつが出来た当初は、それを利用してバッと入る人が6人とか7人とか来たんですけど、その辺も落ち着きましたね。去年なんかは1人かな。

【松野】制度自体は続いてるんですよね?

【田下】続いてるんです。いろいろな政策があって、農家が雇用するのをバックアップするような制度も出来たんですが、制度を維持するにはかなりのお金も必要なので、見直しで厳しくなったりして、ちょっと一服って感じなんですよね。

【松野】来る人の様子はどうですか?

【田下】給付金って年間150万円なんですけど、研修中2年間、就農してから最長5年間なので、フルに7年もらうと1,000万円超えるんですよね。

【松野】おぉ!確かにそういう計算になりますね!

【田下】それって、すごく大きくて、金銭的には、ちょっと蓄えがあれば入れちゃう。パッと入れるようになったんで、パッと気が変わると辞めてったり、他へ変わったりっていうのが多いですね。
給付金がなかった頃は、しばらく収入もないっていうのも覚悟して、しっかり準備をして貯めてから入ってきてたので、脱落っていうのは割と少なかったんですね。

【松野】給付金の制度って、難しいですね。

【田下】やっぱり、しっかりやっていく人には良いんですが、あのお金で「憧れの田舎暮らし」しちゃってるような人もいたりしますね。だから今、3年経ったところで見直しの議論も出てきてますね。

【松野】結局、しっかりやる人は、給付金があろうがなかろうが、ちゃんとやるんですよね。だから、しっかりやる人が、給付金があったことによってスタートが早く切れて良かったね、っていうケースがどれだけあるかですよね…調べるのが難しそうですけど。

【田下】新規就農する人の数が、もう桁違いに少なくて、これはもうダメだって、あれだけ大枚はたいて、始めた制度なんですよね。新規就農者の数は増えてきているので、そういう意味での効果は少し上がっているんですよね。それがどれだけ持続できてるかっていうところですけど。

【松野】まぁ抜け落ちる人はどうやっても抜け落ちる人でいるでしょうし、ある程度母数が増えるなら、やったほうがいいのかな…

農家を増やすには? – 「暖簾分け」の取り組み

【松野】新規就農したいですって相談された時に、最初にどういうこと言われますか?ネガティブなことを言うか、ポジティブなことを言うか、両方もあるでしょうけど。

【田下】当人がどう考えてるかによって違いますね。慎重な人には、あのまぁ大変なんだけど、やっぱりすごい良い仕事だと思うよ、みたいな話をするんですけども、ちょっと調子に乗ってるみたいな人だと、しばらくやってから考えたほうが良いんじゃないの、みたいな話をすることはあります。

【松野】【新川】【大西】(笑)

【田下】ただ門前払いみたいにはしなくて、できるだけ思いは拾うようにしています。でも、ここは学校ではないので、手取り足取り面倒を見ることはないよ、とは言います。何人かいると、日々の努力の仕方とか、気持ちの持ち方で、1年でもガラッと差が出てきちゃうのが、こちらからは見えるんだよ、って。差が出ちゃった人をサポートすることはしないけど、頑張ろうと思う人はいくらでも手伝うよ、っていう話をします。

【松野】独立したら、畑も条件も違うわけですし、自分で考えられるようになる必要がありますよね。でも受け身の人は多いでしょうね。

【田下】そうですね。就農支援の制度に乗っかっていると、行政だとかいろいろ指導してくれたりするし、バックアップもちょっとずつ増えてきてるのでね…そうやって受け身で来た人に「昔はこんな制度なかったんだよ」っていう話をしても通じないですし、そういう人は長続きしないですね。

【大西】今、こちらにいらっしゃる若い人は、どういう形なんですか?

【田下】社員が2人、研修で来ているのが3人います。

【松野】風の丘ファームさんとしては、若い人に独立を勧める方針ですか?

【田下】社員はできるだけ長くいてもらいたいですが、研修の人は1年~2年の間に仕上げて卒業っていう感じですね。

【大西】ここまでの話を伺って、農業の担い手を増やすことを考えた時に、若い子を独立させるだけじゃなくて、会社組織にしてサラリーマンとして入れていくっていう形もあるのかなと思いました。この地域では、有機に限らなくても、農業生産法人とか会社組織で経営している農家って、けっこうありますか?

【田下】ここの町は1つ2つですね。

【松野】田下さんのところでは、今の規模から大きくしようとか、逆に縮めようとか、ありますか?

【田下】規模的には、今ぐらいが丁度いいのかなと考えています。ただ、農地が空くから作ってくれっていう話がたくさん来るので、うちの方で一旦受け入れて、独立する研修生に渡すっていうような形にしていて、ちょっと上下はするんですけども、あまり変わらないですね。

【松野】お給料をもらいながら、田下さんみたいな師匠が一緒に土を作ってくれて、その畑である程度できるようになったら、それを貰って独立するって、とても独立しやすいやり方ですね!

【田下】そうですね。遊休農地をある程度復旧するノウハウはあるし、機械力もあるんで、そうやって1年2年やると、ぐっと楽になるんですよね。
新規参入で、機械もなくて、最初っから草と戦うっていうのは結構大変です。

【松野】自分一人でゼロからって相当大変ですよね。ノウハウがあるところで作ってもらった畑の一部をもらって、独立してまた自分で増やしていくって、いいですね。

【田下】それに最初は、土地を借りるのも、なかなか大変なんです。でも風の丘ファームとして地主さんに頼みに行けば、わりと簡単に貸してもらえて、一度入り込んじゃえば、顔も覚えてもらって、その後はあそこもここも、って話が出て来るようになります。
5年前くらいでしたかね、東京の農業高校を出てすぐにうちへ来て、3年やって、21で独立した人がいました。彼は真面目だし、畑も2町歩くらいに拡がって、家族も呼び寄せて、今は兄弟3人、お父さんお母さんと、おじいちゃんと暮らしてますね。

【松野】我々としても、そうやって有機の野菜を作ってくれる人が、どんどん増えて行ってほしいですね。

品質と量と労力と – プロとして考え続ける

【大西】お客さんからの評判はいかがですか?飲食店のお客様も、口コミや紹介で拡げてもらったというお話がありましたが。

【田下】そうですね、その辺が大きいですよね。シェフが後輩だとか付き合ってる人たちに広めてくれるっていうのがポツポツあるんで、そういう意味で、お客様とコミュニケーションとらないといけないなと思います。
お客様が飲食店だと、B品が出せることが助かるんですね。キュウリなんか作ってると、風が吹けば擦れてハネもんになるっていうのが、ものすごいたくさん出るんです。スーパーでは絶対使ってもらえないんですが、飲食店で使ってもらえるのがありがたいです。

【松野】なるほど。

【田下】ある程度B品を出せていても、それでもものすごい量の廃棄が出るんです。使えるものの廃棄なんです。それを情報を出していって、もっと使ってもらえるようにしたいと思っています。

【大西】買っていただくっていうか選ばれるために、出す側として何をしていけば良いのか、究極の小松菜じゃないですけど、美味しさをどんどん突き詰めていくというのも一つの方法ですが。

【田下】しっかりとした土作りをして美味しいものを作るのは一番の命題で、それがなかったらやってる意味がないと思うんですよね。で、美味しいものを作りながら、その上で求められるものはなんだ?っていうようなものを突き詰めて、それに応えていけるようにしたいなとは思ってるんですけども。
ただ仕事なので、お互いどうしようもなく無理だっていうようなことは言います。真冬にトマトを作ったりキュウリを作ったり、ということは絶対しませんが、その中で、じゃあ真冬はこういうものを使ってくださいっていう提案をしながら野菜を出しています。
料理人も旬が分からなくなってる部分があって、スーパーでは一年中、何でも売ってますし、東京は北からも南からも外国からも物が入ってくるんで、ブロッコリーはいつだとかズッキーニはいつだとかって言われても全然わかんないのも無理がないと思います。
でもやっぱり東京だったら、バックヤードの埼玉とか千葉とかが第一の供給源なので、その関東の旬がやっぱり東京の人たちの旬だよねって、それを料理して食べるのが、健康につながるし、エコロジカルだよね、っていうことをなるべく理解してもらいながら、上手に生産しながら販売していくように取り組んでいます。

【松野】その通りですね。

【田下】農家の方も、作りやすい時にばかり作ってるようでは、なかなか売れないです。資材を使ったりしながら、少しずつでも幅を拡げる、品目を増やすとか、出荷時期を長くすることは必要です。
でも無理なところは無理っていうのと、旬を知ってもらう、ということでお便りを出したりしているんですよね。

【松野】田下さんの、プロの農家の立場からすると、お客様の需要量に応えないといけないですよね。ものすごく美味しい小松菜ができても、量がちょっとしかないと、しょうがないですよね。品質も量も大事ですが、その辺のバランスというか、落とし所はどうされていますか?

【田下】いろんなせめぎ合いがあって、労力との兼ね合いも大きいんですよね。通年でサラダ野菜を出したいと思っていても、6、7、8月は手がかかり過ぎるので難しいとか、そこで手を取られてここ1年2年はジャガイモが掘り切れなかったとか、でもそれなら来年はジャガイモを減らしてもいいんじゃないのと思ったりとか、見直すべきものがたくさんあるんですよね。
品質はある程度のところで打ち切って、その労力を別の野菜にかけた方がいいかな、ということを、その都度その都度、見ていかないといません。

【松野】ずっと考え続けないといけないんですね。毎年、天候が違ったり、人手が増えたり減ったり、コンディションが違う中で、やっていかないといけないんですね。

【田下】試行錯誤で、これがダメだったからあれだったっていうのを、ずっと繰り返しですね。そこに「人手が足りない」ってなると、もう胃がキリキリして、夜が明ける前から仕事します。

【全員】(笑)

これから農業を目指す方へメッセージ

【松野】これから農業をやりたいなって思ってる人たちに、言っておきたいことがあればお願いします。

【田下】転職の場合、前のところを上手に辞められなくて、それでも来るっていう人もいるのですが、まずひとつずつキレイに辞めて、ステップアップしていきましょうねって。人間関係がすごい大事な仕事なので、それがきちんと出来ていかないと、こっちに来てもなんにも出来ないなっていうのがあると思うんですよね。

【松野】なるほど。

【田下】それと、身体を動かしていくのは必須だし、それとともに、どう作るか、どう出荷していくか、って絶えず考えて頭も使わなきゃいけないし、っていうところで、そんなに簡単な仕事では無いのは確かなんだけども、本当に春の暖かい時とか、秋の気持ちいい時とか、あぁ良いなっていう季節があるんで、年がら年中厳しいんじゃなくて、一瞬いい時期があるよっていうところですね(笑)

【松野】【新川】【大西】(笑)

【田下】夏は地獄のようなところで作業して、本当に死にそうになる時があるんですよ。

【松野】【新川】【大西】(笑)

【田下】ちょっと前はそうでもなくて、作業中に水筒を持ち歩くこともなく、休憩時にちょっとお茶して、で済んでたんですけど、最近は常に水を飲んでいないと死ぬな、っていうくらい、本当にね夜に脱水症状になって、足がつったりするんですよ。もう35度、6度、7度ってね、漁師さんじゃないけど、死に直面しているところもあるので、本当に気をつけないと。

【松野】【新川】【大西】ひぇ~

【田下】ま、頑張って汗流して、すぐさまビール飲んじゃうっていう楽しみもありますけど(笑)
冬も寒くて泣きそうですけど、春とか秋とか清々しい季節は、本当に良いですよってお伝えしたいです!

【松野】いいですね!今日は長い時間、ありがとうございました。

取材日: 2017/09/03

今回の対談は、ここまでです。いかがでしたか?

前編 でも、ディープなお話を伺っています。併せてご覧ください!

代表・松野が聴く!生産者・田下さん 前編 – 改めて考える農村の役割と現状 –
代表・松野が聴く!生産者・田下さん 前編 – 改めて考える農村の役割と現状 –
有機の生産者さんとの対談企画・第5弾は、田下隆一さんです。 埼玉県北部の丘陵地で、30年以上有機栽培を続けながら、多くの新規就農者を育てられました。 今回は、改めて考える農家の役割と、それを担う農家の育て方について、現場での取り組みを伺いました。

風の丘ファーム・田下さんのお野菜は ビオシェルジュ で注文を承っております。(季節により、取り扱いがない場合もございます)
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おまけ

最後に農園の様子を少しご紹介します。
取材したのは夏の終わり、実物野菜の収穫も終盤に差し掛かる頃でした。

オクラ

トウガラシ

白ピーマン

普通のピーマン

普通のピーマンは、収穫せずに完熟させると赤く色づくのはご存知でしたか?
苦味が消えて、すごく甘く、香り豊かになって美味しいのですが、残念ながら傷みやすいため市場には流通しません。ぜひ、畑に来て食べてみてください。

緑ナス

白ナス

写真中央(ややピンボケですが)の赤い紐は、農薬を使わずにイモ虫の発生をコントロールする「フェロモントラップ」という資材です。

田下さんから教えていただいた詳しい話は「オーガニック農業 プロの技」でご紹介していますので、そちらもご覧ください。

最後は無農薬の畑をパトロールするカエルさんのお見送りを受けながら、帰路につきました。

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