分類:セリ科ニンジン属
名称:carrot(英)、carotte(仏)、 にんじん(日本)
ニンジンはセリ科ニンジン属の野菜です。
一般的には根を食べる野菜として多く出回っていますが葉も美味しくいただけます。
代表的な緑黄色野菜の一つですが、ニンジンのきれいなオレンジ色はカロテンという栄養素によるもの。
英語名のキャロットはこのカロテンを元に付けられたものです。
ニンジンが育つ適正温度は18~21℃なので本来旬は11~12月頃なのですが、日本全国の各地域の気候に合わせて栽培・収穫されていることから一年を通して市場に出回っています。
ただし、甘味や旨味、栄養成分的に見ると一番美味しい時期はやはり秋から冬にかけてになります。
ニンジンの生産量は北海道がダントツ一位で全体の約3割を占めています。
次は千葉県で生産量は全国の約2割。
北海道と千葉のみで全国のニンジンの約半数量を生産しています。
ニンジンの品種は大きく東洋系ニンジンと西洋系ニンジンの2種にわけられますが、東洋系のニンジンは栽培が難しいため、現在一般的に出回っているのは西洋系のニンジンです。
歴史
ニンジンは中央アジアのアフガニスタンで野生種が発見されていることから、アフガニスタンが原産地といわれています。
その後、10世紀頃に現在のトルコ辺りに広まり、13世紀頃に中国の方へ伝わった東洋系、ヨーロッパへ伝わった西洋系と分岐し、それぞれの土地柄に合わせて品種改良が勧められていきました。
最初に日本へ伝わったのは16世紀末ごろで中国から東洋系ニンジンが入ってきたとされています。
もともと日本で栽培されていた薬用のニンジン(朝鮮人参)と根の部分が似ていることや、葉の部分は芹に似ていることから「せりにんじん」と呼ばれました。
この頃のニンジンは多彩で、赤や黄色、紫、白といったさまざまな色のものが栽培されていたそうです。
西洋系のニンジンは、フランスで改良されていたものが19世紀末の江戸時代末期に長崎に伝来されたといわれています。
東洋系のニンジンは栽培が難しいことから徐々に生産量が減り、昭和30年代以降は西洋系のニンジンが主流となっています。
種類
ニンジンは東洋系ニンジンと西洋系ニンジンの2種に分類されます。
西洋系ニンジン
現在一般的に出回っているニンジンです。
甘みがあり、カロテンが豊富なため明るいオレンジ色をしています。
最近ではニンジン特有の臭みは品種改良によってずいぶんと緩和され、とても食べやすくなりました。
ニンジンの根の長さを元に品種分けされており9~10cmを「三寸」、12~15cm前後を「四寸」、15~20cmを「五寸」と表現されています。
五寸ニンジン(西洋五寸)
現在日本で「ニンジン」といえば、この五寸ニンジンを指すほど最も流通しているニンジンです。西洋五寸、または黒田五寸とも呼ばれています。
五寸ほど(約15~20cm)の大きさであることから五寸ニンジンと命名されました。
耐暑性や耐病性にすぐれているため栽培しやすく、また多収なのが特徴です。
形状的には根の先端が丸いものが多く、太めです。鮮やかなオレンジ色はβカロチンによるもの。
日本各地の風土や気候に合わせて品種改良を重ねられ、ニンジン特有の匂いも少なくなって食べやすくなっています。
なお五寸ニンジンは、黒田五寸の他に、暑さにも寒さにも強い「ときなし五寸」、黒田五寸より短めで肉付きの良い「新黒田五寸」、黒田五寸と並んで主力品種の「向陽二号」、低温下での生育に優れた春作専用の「いなり五寸」、早生系の「春蒔き五寸」や「あすべに五寸」などたくさんの品種があります。
三寸ニンジン
根の長さが三寸(10cm前後)ほどの短いニンジン。太くて生育が早いのが特徴です。
江戸東京野菜の一つ「馬込三寸ニンジン」、極早生の「平安三寸」、寒暖いずれの時期でも栽培可能な「時無三寸ニンジン」などがあります。
ミニキャロット
ナンテス系のにんじんで、名前が表すとおり非常にサイズが小さく大きなものでも10cm程しかありません。このためベビーキャロットとも呼ばれています。
太さは全体的に変わらず直径約1~1.5cmほどです。栄養的には通常の西洋にんじんと変わりなくベータカロテンが豊富です。
用途としても通常のニンジンと同様にシチューやポトフなどの煮物に使ったり、天ぷらなどの揚げ物、炒め物などで利用できますが、皮が薄くて肉質は柔らかく甘味も強いため、そのままバーニャカウダや野菜スティックなどサラダとして生食するのもおすすめです。
カラフルニンジン
ニンジンは通常のオレンジ色の他に、黄色や紫、白等のさまざまな色の品種もあります。
黄色ニンジン
ニンジン臭さが無く柔らかな肉質で甘味のが強いのでサラダやジュースなど生食で美味しくいただけますが、加熱するとさらに甘味が増して柔らかな味わいになるため煮たり炒めたりするのもおすすめです。
金美人参
形は五寸ニンジンによく似ていますが、色は鮮やかな明るい黄色の人参です。中国の「Chinese-Yellow」と赤色の人参「春蒔き五寸」を勾配して作られました。
イエロースティック
長さが約20cmほどの細長い形状で、色は中心部まで鮮やかなレモンイエローをした人参です。
島にんじん(チデークニー)
東洋系ニンジンの欄参照
紫ニンジン
ヨーロッパで栽培されている紫にんじんを改良した品種で糖度が非常に高いため甘味が強いニンジンです。
紫色はブルーベリーなどでも有名なポリフェノールの一種アントシアニンによるもので、通常出回っているオレンジ色のニンジンに比べ約10倍も多く含まれています。
アントシアニンは加熱すると色素が溶け出してしまうため、他の食材に色移りしてしまい、またニンジン自体の色も薄くなってしまうので、サラダやジュースなど生のまま食べることをおすすめします。
主な品種としては、「パープルスティック」や「パープルヘイズ」「ダークパープル」などがありますが、「パープルスティック」や「パープルヘイズ」はいずれも細長い形をしていて、外側は紫色で中はオレンジ色をしているタイプです。
「ダークパープル」は外側の紫色が非常に濃く、また中まで紫色が入り込んだタイプで、パープルスティックに比べて上部は太く、先は細いのが特徴です。
白人参
スノースティック
見た目は大根を小さくしたような感じで長さ20㎝ほどのニンジンです。
中まで白く、ニンジン臭は少なく甘味が強いため、野菜スティックやバーニャカウダなど生食に向いています。
パースニップ
主にイギリスを中心としたヨーロッパで食されているニンジンで、鎌倉ニンジンや白ニンジン、アメリカボウフウやオランダボウフウなどさまざまな呼び方があります。
ニンジンの香りがしっかりと感じる品種です。
独特の香りが強いことから生食にはあまり向いていません。
加熱するとさつまいもやじゃがいものようなホクホク感と甘味があり、また煮崩れしにくいので、シチューなどの煮込み料理やスープに向いています。
大長にんじん
国分大長
大正時代の中頃に、西洋系の長ニンジンを元として品種改良されたニンジン。
形状は60~80cmと非常に細長く、色は外も中も鮮紅色。緻密な肉質で香りも甘味もとても強いのが特徴です。
煮物やキンピラなど加熱する料理に向いています。
栽培に手間と時間がかかることから生産量は年々減少して、現在はお正月用に僅かに出回るのみです。
滝野川大長
江戸地代初期に日本に伝わったニンジンで、徳川吉宗が小石川薬種園に集めて滝野川大長ニンジンとなったと言われています。
色は外も中も鮮紅色。芯が細く、長さは60~70cmほど、長いものになると1mを超えるものもあるそうです。
香りが強く、肉質が締まっており、甘味も非常に強いのでお正月料理のお煮しめに向いています。
栽培が非常に難しく、とうも立ちやすいことから栽培が激減し一時期絶滅したと言われていましたが、現在、滝野川大長ニンジンと札幌大長ニンジンを交雑して生まれた「万福寺鮮紅大長人参」として栽培され、採種元である北区滝野川の日本農林社の了解を得て江戸東京野菜の名に戻したそうです。
東洋系ニンジン
先に日本に伝来したニンジンで、根が細長く、肉質が緻密で、赤や黄色などさまざまな色のニンジンがあります。
カロテンを含まないためニンジンの独特な香りが少なく、甘味が強いのが特徴です。現在栽培されている東洋系ニンジンは数少なく、とても貴重な存在になっています。
金時ニンジン
「京ニンジン」とも呼ばれているニンジンで、鮮やかな濃赤色をしています。
11~3月頃に出回りますが、お正月を過ぎるとあまり見かけなくなります。
長さはまちまちですが、だいたい30cm程で、太さは直径5~7cm程度。
五寸ニンジンと比べるととても細長い形をしています。
ニンジン臭さはあまり感じられない代わりに、金時ニンジン特有の香りがあります。
甘味が強く、柔らかい肉質をしていますが、煮崩れしにくいことから主にお正月のお煮しめ等によく使われています。
色合いが美しいため、煮物以外にもサラダやピクルスなどもおすすめです。
金時ニンジンの赤い色はリコピンによるもので、βカロテンと同様に強い抗酸化作用があり、活性酸素を除去してくれます。
島にんじん(チデークニー)
耐暑性に優れた沖縄特産の黄色いニンジンで、現地では「チデークニー」と呼ばれています。
チデークニーとは沖縄の方言で黄色い大根という意味です。
出回るのは11~4月頃。30~40cmほどの長さでごぼうのように細長い形をしています。
通常のニンジンに比べて甘味が強く、またニンジン特有の臭みも感じません。
沖縄では煮物や炒め物によく使われています。
熊本長にんじん
古くから熊本で栽培されてきた熊本の伝統野菜「肥後野菜」の一つ。
ほとんどごぼうのような形状でで、長さは約50cm、長いものになると1m以上になるものもあるそうです。太さも1.5~2.5cmとかなり細身です。
その性質から栽培がとても難しく、現在では熊本の極一部でのみ作られているのみで、そのほとんどが地元で消費されています。
出回るのはだいたい12月下旬~3月頃。
通常のニンジンより赤みが強めで、ニンジン特有の香りが強いのが特徴です。
生食でもかなり甘味を感じますが、焼くと更に甘味が増します。
主にお正月料理のお煮しめやお雑煮などで使われています。
ニンジンあれこれ
にんじんに含まれる酵素「アスコルビナーゼ」
ニンジンにはアスコルビナーゼ(アスコルビン酸酸化酵素)と呼ばれる酵素が含まれています。これは、ビタミンCを破壊する酵素と言われています。ビタミンCを含む他の野菜と一緒に摂取すると、この酵素の働きによりビタミンCが損なわれることがあります。
ただアスコルビナーゼは、酸や熱に弱いため、加熱調理したり、酢やレモンなどと一緒に摂取すると酵素の働きが抑えられ、ビタミンCの破壊を防ぐことが出来ます。
と、一般的によく言われていますが、、、
通常の野菜の調理過程でビタミンCが破壊されることはほとんどないという学説があります。すり下ろしたにんじんと大根を混ぜたあと1時間ほどして調べたところ総ビタミンCはほとんど残存していた、という実験データがあり、またニンジンを含んだ野菜ジュースをしばらく放置してもビタミンCの減少はほとんど見られなかったとのデータもあるとのことです。
なので、アスコルビナーゼ(アスコルビン酸酸化酵素)の作用については、さほど神経質に考えなくてもいいのではないでしょうか?それよりも、いかに美味しくニンジンを食べるか、を気にしたいですね。
ニンジンと高麗ニンジン
高麗ニンジンと言われるニンジンは同じニンジンでもまた別物です。
現在一般的に目にしているオレンジ色のニンジンはセリ科の植物、高麗ニンジン(朝鮮ニンジン、オタネニンジン)はウコギ科の植物です。
6~7世紀頃に朝鮮半島経由で現在のニンジンより先に日本に入ってきていたことから、当初は高麗ニンジンがニンジンと呼ばれていましたが、江戸時代以降に現在のニンジンが野菜として世間で広く使われるようになり、次第にニンジンといえば現在のニンジンを指すようになりました。
ニンジンの名前の由来
ニンジン(人参)は、日本で古くから知られていた高麗ニンジンの根っこの形が人の形に似ていたことから「ニンジン(人参)」と名づけられたと言われています。
一方、16世紀頃に東洋系ニンジンが日本に伝わり、その根の部分が高麗ニンジンに、また、葉は芹に似ていたことから「芹ニンジン」と呼ばれました。
その後、芹ニンジンの方が全国的に広まりいつしか単に「にんじん」と呼ばれるようになったと言われています。
逆に薬用のニンジンはそれと区別するために高麗ニンジンと呼ばれるようになりました。