有機農業の生産者との対談企画・第2弾、伊藤省吾さんの後編です。
前編 では、新規就農の体験談と、オーガニック野菜の美味しさの理由を伺いました。
また、素敵な農園の様子もご紹介しています。
後編では、プロの有機農家としてやるべきこと、加工品への取り組みや、有機JAS認証について伺っています。
さらに、オーガニック農家と飲食店の付き合い方にも話は広がります。
加工品はプロと手を組んで
― 今後取り組みたいことって、どんなことでしょう?
【伊藤】ちょっと思っているのは、加工品ですね。
それも自分たちで加工するんじゃなくて、自分たちの野菜を使った製品をどっかで作ってもらって、売るのは自分たち、っていうのをやりたいなって思って。
仲間と一緒に始めてはいるんですけど、もう少し増やしたいです。
― 農家さんが自前で加工の設備投資をすると、一年通して設備を稼働させるのも難しいですし、回収が大変ですよね。
【伊藤】あとは生協さんとか大手に卸す場合、品質管理が大変です。異物混入の対策とか、どういう工程で作ったかっていうのを、すごい書類を出したりしてチェックしなきゃいけません。もし何か起きたら回収するとか、そういうリスクまで考えると、中途半端に自分たちでやるよりも、プロにお願いしたいんですよね。
ただ、やっぱりちゃんとしたね、素材の味を活かしたようなものを作りたいと思っていますが、なかなかそういうのをやってくれる所がありません。
添加物いっぱい入れてとか、そういうのはいっくらでもあるんですけど(笑)
― 意味ないじゃん(笑)
【伊藤】今、1箇所だけ、作ってくれる所があるんです。そこでニンジンジュースを作ったんですよ。ちょっと飲んでみます?
― ぜひ、いただきます。(…試飲中…)
うん、これ、美味しいですね!味付けがちょうどいい!
【伊藤】ちょっとだけ塩を入れてます。どろっとした、なんかネクタータイプっていうみたいなんですけど。甘味は、ニンジンの甘味だけなんですよ。
― よく、ニンジンジュースとリンゴジュースを混ぜて飲みやすくしてるやつがありますけど、あれに味近いですよね、ニンジンしか入っていないのに。
【伊藤】この業者さん、いろんな産地から依頼されて作ってるみたいです。こういうストレートジュース、たぶんね、ほとんどここなんですよね。瓶の形は、みんな一緒です。
― 覚えておきます(笑)
【伊藤】加工品の種類を増やして、売りたいんですよね~。なんか在庫を持つってすごい憧れるんですよ(笑)
― 私たちは、在庫って聞くと寒気がします!管理は大変だし、気がつくと賞味期限が過ぎてるし、棚卸しなんて泣きそうになるじゃないですか!
【伊藤】うちで作ってるのって、在庫がしにくい野菜ばかりなので、「持っていられる」っていう安心感、いつでも売れるっていうのに憧れがあるんです(笑)
有機JAS認証は、おすすめします
【伊藤】ニンジンジュースは、仲間と一緒に「グットファーム」という名前で作っています
新しい人たちをもっと入れてやっていきたいなって思います。
― 新規就農した人たちの売り先として、こういうのって絶対いいと思うんですよね。
【伊藤】そうなんですよね。これみんな有機JAS認証をとってるんです。
ただ、有機JASの認証をとってやっていこうっていう人が、少ないんですよね。みんな作り方自体は無農薬なんですけど、認証を取ろうっていう人はすごい少数なんですよね。
― それはやっぱり手間とお金の問題ですか?
【伊藤】そうだと思います。あと「やらされている感」がどうもあるみたいですね。実際取ってみるとそんなことは無くて、勘違いされてるんですけど、そういうところがちょっと抵抗を感じちゃってるみたいですね。
― 有機JASのことを悪く言う方もいらっしゃいますが、私たちも認定講習を受けて勉強してみると、理念とかちゃんとしてますよね。
基本は無農薬にしましょう、間違っても化学的な資材が混ざらないように管理しましょう、ただ、どうしようも無い時だけ、生物由来の資材とか、ごく一部だけは使っていいよ、でも記録はちゃんと残してねっていう話なんですが、なぜか「有機JASは農薬を使っている」だけの乱暴な言い方をされてたり、その辺が上手く伝わってないんですよね。
【伊藤】そうなんですよね。
― 私たちは、できれば農家さんは有機JASは取ったほうがいいと思っています。
何をもって「無農薬」と言うかって結構難しい話で、一般消費者にそこまで理解してもらうのは大変だし、やっぱりパッと見てわかるものがないと小売業者が扱わないんですよね。
せっかく無農薬で苦労して作ってるのに、それで土俵に乗れないっていうのは、もったいないなって思うんです。
これくらいのことですむんだったら、変に毛嫌いするよりは、やった方がいいんじゃないかって思って。
【伊藤】本当にそう思いますよ。だからみんなに不特定多数の人に売るんだったら取っておいたほうがいいよって言うんですけどね。
ただ、昔からやっている人って、直接個人のお客様に宅配で送ったりとか、そういう人達からするとやっぱり必要ない。それで経営が成り立ってる人も結構いるんで。
でも、新しい人には、ぜひ認証を取ってほしいですね。どこに話を持っていっても、すんなり通るようになります。
プロフェッショナルの農家になるために
― 他に新規就農する方へのアドバイスってありますか?
【伊藤】今ね、すごいたくさん補助金とか出てるんですけど、あれがもうやっぱり自立を妨げちゃってるから、なるべくそういうのに頼らないで、と。
まぁ頼らないでって言ってもお金くれるって言ったらね…
― 貰えるものはね、もらいますよね(笑)
【伊藤】たしか5年ぐらい。ある程度の所得が得られるまで、毎月何万か貰えるんですよね。 (編者注:自治体によって異なります) 田舎だと、それだけで生活できちゃうんですよね。
そうすると、自分で野菜作って売って生計立てていこうっていう気持ちが削がれちゃうから。なるべくそれをアテにしないで一刻も早く自立できるよう頑張ってもらいたいなって思うな。
うちの場合、今になってよかったなって思うのは、やっぱりお金がなかったから頑張んなきゃしょうがない。もうやるしかない。
― いいもの作って売るしかない。
【伊藤】そう。それしかなかったから、もう頑張ってこれたっていう。始めたときから全然将来の見通しとかなんか計画性とかそういうのまるでなくて、ホントに勢いだけで、だけど、ホントにお金が無いから、ね、しょうがないっていうか。
だから、全部お金を使っちゃったほうがいいよって思うんですよね。持ってるお金はトラクター買ったり道具買ったりして、全部使っちゃう。自己資金は全部使っちゃう。
でもだいたい逆なんですよ。やっぱみんなお金は持っておいて、持ってても借りて買う。補助金とか農業改良資金とか無利子で借りれたりするから、余計にね。それのほうが確かに賢いんですよ、なんかあったときにはね、現金持っていた方がいいから。
でもそれだとやっぱり駄目なんですよね。
― 先日伺った農家さん (編者注:石川さん。下記リンク参照) では、けっこう研修生が来てるけど、見通しが甘いっていうのはすごく言っていましたね。
じゃあ五年後にどうしてたいの?家は買うの?子供も出来るでしょ?学費どうするの?とか、じゃそのためには売上はいくら必要なの?どれくらいの値段で、市場の価格がどれくらいで、じゃどこを販路にするの、っていうのが、すごく甘い。
自給自足的生活に憧れるのは良いんですが、なんかこうイメージ先行で始める方がいると。
【伊藤】あ~、なるほどね~。確かにそういう人が多いですよ。
― 極端なことを言うと、野菜って、どこでも誰でも作れるじゃないですか。例えば庭先に種まいて、ちょっと小松菜できました、っていうのも、野菜だし。農家さんが仕事として作っているのも野菜だし。だから、農業って簡単にできちゃうようなイメージがあるのかなって思います。
家庭菜園と農業の区別がついていないのかな?って。
新規就農も結局、起業じゃないですか。起業ってどの業界もそんなに簡単ではなくて、それなりに準備もいるし、ってそういうのが、農業だとポカーンって抜けちゃう気がするんですよ。
【伊藤】そう、そうなんですよね。農業って。そうなんですよ。野菜ってホントに簡単にできちゃうから駄目なんですよね。
― そうなんですよね。ナスとかキュウリなんて、初めて育てても、けっこう取れるじゃないですか。ハマるぐらい。プランターでバジルとか紫蘇とかでも、かなり大きくなるんですよね。なんかそのイメージでいるのかなっていうか。
【伊藤】家庭菜園と農業の区別って、規模なんですよね。
生活できるくらいお金稼ぐには、たくさん作って、たくさん売らなきゃいけない。たくさん作るためには、労働力を上手く組み合わせて、日々、畑の手入れと、収穫と、出荷と、していかないといけない。
その組み合わせ方とか、それをいかに上手くやるかっていうのが、農家の技術ですね。そういう風にやっている農家に研修に行って、そこを学ばないと、なかなかわかりづらいのかもしれないですね。
― そうですね。料理が得意だからレストランできます、じゃないですものね。
10人20人の料理をいっぺんに出せるっていう、上手なやり方を覚えないと出来ないですものね。
【伊藤】そうそう、それと一緒ですよね。
有機農業の適正規模は?
― オーガニック野菜の需要が増えてるかどうか、どう感じます?
【伊藤】東京オリンピックとかもあるんだろうし、ちょっとしたブームになっているかな、とは感じています。一般消費者よりも、レストランにけっこう波が来てますね。
やっぱり他と差別化しなきゃいけないのか、農家から直接野菜取ったりして、それを売りにしてるようなところがけっこうありますね。もう今は、そういうのが当たり前になってきましたね。
― そうですね。ただ大手チェーンの飲食店は苦労されてますね。有機の生産者が少なく供給が細いので、メニューが組めないんですよ。
セントラルキッチンで仕込んで、あとは各店舗でマニュアル通りに仕上げさせるので、食材の大きさも、味も、それなりに決めないといけないんですね。「あ、これ入んないんなら、今日はこれ代わりでいいや」って、現場では出来ないんですよね。
だから年中ニンジン無いと駄目だし、本来は夏と冬と味が違うのに、それでもやっぱり一緒の味にしなきゃいけないとか。
そういう意味で大手さんには、納められる品目は限られちゃいます。
一方で、伊藤さんのように長くやってきている人が増えてきて、量を作れる人が増えてるって思いますね。だから単品でけっこうドーンと出せる人が、だんだん出てきてるんじゃないかなって気がしますね。
安定供給ってすごくやっぱり使う側からすると重要になってくるので、ありがたいです。
【伊藤】そうですね、そこがホントに難しいところですね。だからこういう形で仲間と一緒にちょっとでも安定的に供給できればいいなって思ってやってるんですけど、それでもやっぱり無いときはみんな無い。
おんなじ地域でやってるから、ダメなときはみんな駄目、いいときはみんないいっていう、そういう状況なんですよね。
― だからもうそこは、消費者に近い側、僕らのほうが調整すべきだと思います。この時期はこの地域でこれだけ、で、次の時期はあの地域でこれだけ、っていう風に。
個人でやってらっしゃっるとか、多くても2、3店舗くらいの飲食店だと、いろいろと面白いことができますよね。
【伊藤】そうですね。ただ、欲しいって言ってくれる人はけっこういるけど、でも物はないっていう、けっこうそういう状況ですよね。生産者が少ない。
― あと、新しく有機野菜を取り入れようって言ってる方も、最初は一般市場のイメージでいらっしゃるので、大きさ揃ってないじゃん、って言われたり。
【伊藤】そうですよね。でも、そういうところ、せっかく欲しいって言ってくれるんだから、うまくこう、つながればいいんだけど。最初は擦り合わせが大変ですよね。
― だからレストランさんと農家さんが直接、っていうのは、難しいんじゃないかと思っています。
我々が間に入って、有機野菜で露地物っていうと、こういうもんですよ、ああいうもんですよ、どういう風に使いたいですか?どんな料理にしたいですか?って聞いて、それをまた農家さんにお願いして、出来るのか、ムリなのか、とか、そういう調整は、やっぱり僕らがやる必要があると思います。場合によっては、無選別で仕入れたものを、僕らが選別しちゃって出しちゃうとか、そこまでやらないと、僕らの価値がないと思います。
せっかくオーガニック野菜に興味持って使ってみようかなっていう人達に、意欲を削ぐようなことはやりたくないので、なるべくその、こうですよ、あーですよ、っていうのを一緒に模索しながらやっていきたいなって思ってるんですよね。
これまでの世の中は、でっかい農場作って大量生産して安く作って、で、それをまた全国チェーンのセントラルキッチンにいれて、いかに安く提供するっていう方向でしたよね。
オーガニックはそこに乗せられないですし、違うやり方を目指したいですよね。
小さい農家と小さいレストラン、、、あんまり小さくてもあれなんですけど、そこそこの規模の農家と、そこそこの規模のレストランで、やりとりできるような仕組みって無いとつまんないなぁ~って思って。
じゃないと全国どこに行っても同じになっちゃうし、それもつまんないし。
【伊藤】去年シェフの人連れてきたりしたじゃないですか。 (編者注:2016年8月農園ツアー・リンク先でご紹介しています) やっぱり畑を直接見てもらうと違いますよね。なんかそれを、こう、レストラン帰って料理にうまく活かしてもらったりとか、そういう風にしてもらうと嬉しいし、なんかそういうつながりもあるといいなって思うんで、また機会を作ってください。
― ちょこちょこやってるんですけど、レストランさんが休みを取りやすい時期と、畑に野菜がありつつ農家さんにも余裕があるという時期って、なかなか合わなかくて、試行錯誤してるところです。
でも、そこはどんどん増やして行きたいなって思っていますので、ご協力お願いいたします。
今日は長い時間ありがとうございました!
取材日:2017/05/04
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