オーガニック野菜を使う料理人から、お話を伺います。
お店にこめられた思いから、有機野菜を使う理由、そして使い方のコツなど、お聞きします。
第6弾は、東京都六本木にある ジャン・ジョルジュ 東京 のシェフ 米澤文雄さんと、スーシェフ 戸井正洋さんです。
六本木・けやき坂通りにあるレストランは、ニューヨークで最高評価を受け続けるジャン・ジョルジュの日本初上陸のお店。世界の食文化と融合した独創的なフランス料理が、目の前のカウンターキッチンから提供されるお店です。(店舗の様子は最後にご紹介します)
米澤さんはニューヨークの旗艦店で日本人初のスーシェフ(副料理長)を務めた後、日本一号店のシェフ(料理長)を任され、腕をふるっていらっしゃいます。戸井さんはスーシェフとして、仕入れから調理、若手の教育など幅広く活躍され、お店を支えていらっしゃいます。
【米澤】米澤文雄さん
【戸井】戸井正洋さん
若さで飛び込んだNY そして出会い
【米澤】もともと料理を勉強しに行ったんじゃないんですよ。なんとなく楽しそうだな、英語がちょっと喋れて、友達100人できたらいいな、そんな動機です。で、アメリカ行くんだったらニューヨークでしょ、って行っちゃったんです。ジャン・ジョルジュなんて知りもしなかったです。
【米澤】はい。高校卒業して4年ぐらいは経験があったんです。
【米澤】はい。今考えると恐ろしいんですけど、30万くらいしか持ってなかったんですよ。何を思ったのか、それで「いけるんじゃないの?」って(笑)
【米澤】やがてお金が足らなくなって、たまたまその時のルームメイトが日本食のレストランで働いてて、なんか日本人の経験者探してるよ、って紹介してもらって、働くことになったんですね。
【米澤】いざ仕事として始めると、やっぱり良いものが見たくなって、せっかくだからニューヨークっぽいものを見ようと思ったんです。当時だからザガット・サーベイ(編者注:1979年にNYで始まったレストランガイド)を調べたり、一緒に働く人に良いお店を聞いたりして、直接「ちょっとキッチン入りたいんですけど、タダでいいんで」って電話して。
「スタジエ」って言う研修制度みたいなのがあったりして、電話すると結構「OK」って言ってくれるんです。で、休みのたびに色んな所に電話して、キッチンの中で実際に見られるし、味見もできるし、結構楽しんでいたんですよ。
【米澤】それで色んな所に行きましたが、当時のザガットで最高点だった4店舗の中の1つがジャン・ジョルジュ、あそこで働いたら格好いいなと思って、電話したら良いよって言われて、入れたんです。
そしたら、他のレストランとは全然違ったんです。真剣さとか、統率されているところとか、衝撃を受けました。それで3回ぐらい続けて行ったら「いつも来てるけど、うちに興味あるの?じゃあ、働く?」って言われて、働き始めたんです。
【米澤】4年ぐらいですね。それから日本に帰ってきて6年ぐらい、他の店2、3軒でシェフをやってたりしました。それでジャン・ジョルジュが日本初出店って時に、タイミングが合って、お話をいただいて「じゃあやらせていただきます」って。
料理人が語る ジャン・ジョルジュの魅力とは
【戸井】いろんなシェフがいる中でも、ジャン・ジョルジュの場合は、味を中心に考えていく人ですね。「味の驚き」だと思うんですね。この店のカウンターの近いキッチンという形を作ったのも、温度と味にこだわったからなんです。
【戸井】他のフレンチだと「視覚」と「味」で、重点が「視覚」に寄っていると思いますが、ジャンジョルジュの場合は比較的「味」に寄っているかなと思います。
【戸井】フレンチの中では、どちらかというと「豪快」という部類かもしれません。使う食材の違いもあって、そこの驚きを求めてるのかなと。例えば、今だとビーフに赤唐辛子のソースを使っているんですね。フレンチのレストランで唐辛子とかハラペーニョとか、なかなか出てこないですよね。辛味に注目しているフレンチって、あんまりないです。
【米澤】見た目でびっくりさせたいっていうのは、あんまりないかも知れないですね。食材の組み合わせで驚かせたいのは、すごくあります。もともとジャン・ジョルジュがフランス人、フレンチのバックグランドがあって、それがアジアの食材に触れて衝撃を受けて、彼自身が融合させた料理、っていうのが根底にあります。インターネットもない時代、30年ぐらい前にトムヤムクンを食べた時は、もうたまげたと、なんじゃこれ!みたいな。
【米澤】俺たちが野菜細かく切って、コンソメ作るのに1日寝かせて、ってあんなに時間を使って作るスープを、タイの人たちはガバガバガバガバ物入れて沸かしただけで、でちょっとライムとか入ってきやがって、いきなり出来上がっちゃう、そんなの有りかよ!っていうのが、その時のジャン・ジョルジュには、もの凄い衝撃だったみたいです。こんな料理最高じゃん!みたいな(笑)
【米澤】そうやって、生姜、レモングラス、バイマックルとか、タイで使うフレッシュスパイスに出会い、またインドで使うようなドライスパイスにも出会い、そこにライムジュースやレモンジュースの柑橘の酸味が来て、それを合わせた時に、彼が「あ、俺が進むべき料理の道はこれだ!」って思ったそうです。それで、ニューヨークで店を出して、すごく評価されたっていうのが入口なんです。その後は、日本や南米などの食材にも対応するようになりました。
口の中でいろんな味が暴れてもらいたい、前菜から少しずつ味が上がっていって、じゃなくて、いきなりボーンっていいじゃん、みたいな。だから酸っぱい、甘い、辛い、しょっぱいが、コースの中で表現されるっていうのがジャン・ジョルジュレストランの楽しみ方です。
【戸井】それが自分たち提供する料理の本質、これがジャン・ジョルジュレストランだよっていうところなので、お店の子たちにも「もう少しはっきり強弱をつけなきゃ」って言うこともありますね。
【米澤】わさびを使うなら、食べた時にしっかりわさびの味がする。隠し味じゃなくて「わさび味」で良いんだよ、とかね。酸味も辛味もジャン・ジョルジュレストランでは貴重で、食べた時にアクセントがあって、記憶に残るような料理っていうのが、メインのコンセプトなんです。
【戸井】たまにそれが行き過ぎてる時もありますけど(笑)
【米澤】はい、そういう感じを提供できるのが、お店として理想です。
アメリカで体感したオーガニックへの意識
【米澤】アメリカは意識がかなり高いと思います。ニューヨークもですが、特にロスなど西海岸が盛り上がっています。ニューヨークのジャン・ジョルジュ・レストランは、今の食材は、牛乳とか卵とかも、ほぼオーガニックになりました。
【戸井】ジャン・ジョルジュ、去年はベジタブルレストランも出しましたね。(編者注:abcV https://www.abchome.com/dine/abcv/)
【米澤】そのJGの感覚としては、環境的なものと、ブランドと、たぶん2つ考えているんだと思うんですよ。
【米澤】都市部はそうですね。特にアメリカの場合は、アレルギー人口がものすごく多いんです。もう、半端じゃないんです。
【米澤】お客様が食材をブワーッと書いたカードを出してきて「これ食べれないんで、よろしくお願いします」って、それをマネージャがコピーしてキッチンに配って「〇〇卓のお客様、これ食べられないから確認して」って。そんなカードをもらったの、向こうで働いている間に、5回や10回じゃなかったですよ。
【米澤】いちいち説明していて漏れがあるといけないから、たぶん自分で作って持ち歩いているんですよね。
【戸井】日本のこの店に来るお客様でも、いらっしゃったりします。
【米澤】そうですよね。それでアメリカでは、アレルギー体質の原因の一つは、農薬の蓄積だと言われています。広大な農場で、数を作らないといけない、数作るには農薬でコントロールするのが一番いいと、昔はバァーっと撒いていましたからね。それで、スーパー行って野菜買ってきてご飯作っても、それがもう農薬バンバンなんですよ。
【米澤】しかもアメリカってレトルト食品の文化が凄いんですよ。冷凍ピザとか、何かにチーズみたいなのを添えたのとか、それを家でもバンバン食べるので、本来は身体に要らないものが入って、どっかでボーンっとアレルギーが出てくる。
ちょっとそれ止めましょうって、オーガニックに一気に舵を切り始めたのが、僕がニューヨークに来たちょっと前ぐらい、15年か20年ぐらい前から始まってきてると思います。
【米澤】90年代後半ぐらいから、アメリカでも、もうちょっとフレッシュでちゃんとしたお野菜を作って、家庭の食卓に届けられるような食文化を推進する運動が盛り上がりました。今はそれが加速してます。オバマさんがfarm to tableを起こしたりね。(編者注:参考記事『米大統領夫人、ホワイトハウス内に「家庭菜園」』 『トランプ夫人、オバマ夫人の菜園で野菜収穫』)
【米澤】そうですね。
お客様に寄り添うことを忘れない
【戸井】美味しいですよ。今うちではコールドプレスジュースを出していますが、やっぱり評判いいです。
【戸井】たまに、慣行(編者注:農薬や化学肥料を使う一般の農法)の野菜を取る時があるんですよ。なんかね、違いますよね。風味というか、ジュース作ってみて飲んだ時に、あぁやっぱ違うって思います。何が違うって難しいんですが、でも何か違ってるねって。
【米澤】なかなか難しい部分もあると思います。オーガニックかどうか気にしない人も、今は圧倒的に多いですし、どういうものを出して、どういうお客さんに来てもらおうとするのか、そのバランスが大事だと思います。
【米澤】僕らはプロなので、純粋に味で判断しちゃうんですけど、僕らが作りたいもの、美味しいと思うものばっかりあっても、レストランって流行らないんです。
【米澤】一般のお客様が食べたいものと違うものになっちゃってる。そこに気づいて舵を切り直すのが、なかなかできないんですよ。舵を切り直せるのは、いわゆる「天才」って人です。一番の理想は、お店としてやりたいこと、やるべきことをキッチリやって、そこにお客様がくっついてくることですが、そういうお店って、そんなに無いんですよ。
【米澤】店側がお客様に寄り添っていくことも必要で、それは多分、価格も、料理も、提供時間も、なんですよね。
それはたぶん、野菜も同じだと思います。
【米澤】うん、実際ありますよね。僕の知り合いでも何人かいます。
【米澤】そうですね。
有機野菜を選ぶ理由
【米澤】単純に言えば、価格と「物」のバランスでしょうね。こないだ知り合いから「すごく良いアスパラがあるんですよ」と紹介されたのが、1キロで6,500円、それはさすがに原価がオーバーしますし、使えないです。
【戸井】使い方にもよりますね。普通の料理に使う分では、味と価格のバランスで選んで、結果的に有機野菜となる場合もありますし、有機だけでは賄えない部分もあって、そこは慣行野菜になったりします。
でもコールドプレスジュースの場合、健康とか美容のために飲むものっていうのが前提なので、そこは有機野菜を選択するのが第一になります。
【米澤】そうですね。価格と味のバランスが基本で、あとは使い方次第ですね。うちはそれほど言ってませんが「無農薬野菜を使っています」というのをブランドにしているお店もあると思います。それもお客様に刺さるフックの一つになってきているというか、今はちょうど過渡期な気がしています。
【米澤】今まで日本で考えるオーガニックって、なんとなく美味しいとか、体にいいとかっていう話じゃないですか。ヨーロッパ、特に北欧とか、あとアメリカも、農薬を使うと地球が汚れるから使わないよ、っていうオーガニックなんですよね。理由が人じゃなくて、地球なんです。
【米澤】魚も、肉も、野菜もそうだと思いますが、資源は限られていて、人口がこれ以上増え続けると、地球上の食糧資源が完全に枯渇するって言われていますよね。そこを上手に回していかなきゃいけないよね、っていう動きは確実にあると思うので、日本もそのステージに移行するような気はしています。そこに対する金額の投資も、必然的に出てくると思っています。
料理人とお客様と生産者のトライアングル
【米澤】あるよね~
【戸井】ありますよ。食材を作った人が見えるっていうのは、やっぱり料理作る上では影響します。同じ人が同じ環境で調理しても、どうしても料理って変わっていくんですよね。その日の気持ちだとか、ちょっと自分に甘くなってしまうところとか、あったりするんですが、作った人の顔が見えていると、そこを後押しされるような感じがあるんですよね。
【戸井】そうですね。料理人が物作る時って、対お客様になるんですが、そこにもう一つ、生産者の方が入ってトライアングルになるような、料理のクオリティとか、厚みが増す感覚はありますよね。
【米澤】変わりますよね。「人と人」なので、人を見ると単純に変わります。食材もそうですし、ワインもそうですし、僕は包丁とか、グラス一つでも、全てにおいてそうだと思います。だから、人を見るのは、すごく判断基準になっていると思います。
【米澤】ただそれも難しくて、会いに行ったら買わないといけないような気がして(笑)
【米澤】会いに行き過ぎるのも微妙なので、慎重にやることにしています(笑)
今日は貴重なお話をいろいろとありがとうございました。
【米澤】はい。とんでもないです。
取材日:2018/04/24
今回の対談は、ここまでです。いかがでしたか?
日本版ミシュランガイドでも星を獲得し続けているレストラン、カウンター席では、世界を魅了した料理の数々を、料理人と会話しながらいただくことができます。
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Jean-Georges Tokyo(ジャン・ジョルジュ 東京)
六本木(東京メトロ 都営地下鉄)
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記事の中では「視覚より味を重視」とおっしゃってましたが、もちろんご謙遜があってのお話で、盛り付けも素敵です。