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ビオシェルジュが聴く!青果卸・伊佐治さん 後編 – これからの有機の流通のかたち –

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ビオシェルジュが聴く!青果卸・伊佐治さん 後編 – これからの有機の流通のかたち –

ビオシェルジュが聴く!青果卸・伊佐治さん 後編 – これからの有機の流通のかたち –

有機農産物の流通を担う業者どうしの対談企画・第1弾、伊佐治幸樹さんの後編です。

前編 では、会社のこれまでの歩みを伺い、卸売業が大事にする人との繋がりについて語り合いました。

後編では、オーガニック野菜の流通が抱える問題と、その解決策について話を深めていきます。

【伊佐治】伊佐治幸樹さん


オーガニック野菜の価格問題

― 価格の問題って、やっぱり大きいんですよね。僕もちょっと前までは、有機なんだから、美味しいんだから、付加価値があるんだから、と、とにかく高く売ろうと考えていたんです。でもそんなのは、消費者から見ると、あんまり響いていないんですよね。それが農産物全体の中で、有機野菜のシェアは0.3%っていう現状の、原因の一つになっていると思います。野菜は普段食べるものなので、いくら良いニンジンでも、1本1,000円では売れないんですよね。

【伊佐治】そうです。

― 逆に、例えば慣行野菜(編者注:農薬や化学肥料を使う一般の農法で栽培した野菜)と有機野菜が同じ価格で並んでいたら、まず有機野菜を買うじゃないですか。

【伊佐治】絶対有機を買いますね。

― 同じ価格なのに、敢えて好んで慣行を買う人って、まずいないと思います。そこが一つのヒントですよね。
有機農家さんが安く出荷できない理由って、もちろん農薬を使わない分だけ人手がかかるっていうのはあるんですけど、その他にも栽培品目が多すぎることが挙げられます。

【伊佐治】はい。

― 例えば慣行農法で農業を始める場合、作ったものを地元の市場に持って行けば、必ず現金に変わるんですね。ただ単価は安いから、それで生活できるように、自分の得意な品目に絞って大量に作ります。でも、有機農家として就農する人は、作った野菜への思い入れが強いのか、市場には出さないんですね。個人向けの宅配セットを仕立て自分で売ろうとすることが多くて、セットの内容を充実させるために、年間70品目とか100品目とか作るんです。そうすると1品目ごとの生産効率は良くない。それに個人では限界があって、結局、宅配セットの中身も毎回同じような野菜ばかりになってしまって、お客様からは飽きられる、結果、行き詰まるという話も聞きます。

【伊佐治】はい。

― 有機で成功している農家さんって、少ない品目で大量に作っている方が多いんですね。千葉のあるベテラン農家さんは、もし市場と同じ価格で出したとしても、最低限の売り上げは確保できる、というぐらいの量を作っていらっしゃるので、そこに有機の付加価値で10円でも20円でもプラスできたらOKで、価格競争力があって、結果的に売れるんです。

【伊佐治】そうですね。

― 皆が皆、その千葉の農家さんのレベルに到達するのは難しいとしても、競争力のある価格で、大量に作って経営を成り立たせるっていうアプローチは、もっとあっていいと思います。「効率的に大量に作れる」っていうのも、プロの農家の技術として大事なことだと思います。
これまでの流れとして「有機は高く売る」「有機は市場に出さない」という固定観念みたいなものに縛られているような…

【伊佐治】ありますね。

― うちの仕入れ先の若手農家さんで、無農薬の単品目だけで2町歩作っている方がいるんですよ。(編者注:若手農家・鈴木さんとの対談は↓こちらの記事で)
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有機の生産者さんとの対談企画・第7弾は、鈴木健之助さんです。 長野県東部の丘陵地で有機栽培を営む若手農家です。 ズッキーニだけで2町歩という思い切った栽培をする若手農家さん、元アスリートという経歴からもユニークなお話がザクザク出てきました。

【伊佐治】すごいですね!

― で、それを市場に出してるんですよ。それだけでも成り立ってる。彼は全くの素人から就農した人で、先入観もないし、無農薬で手間がかかっているのも特別に苦とは思っていなくて、だから普通に市場に出せている。そこでうちが「市場よりは少し高く買えるよ、B品も買えるよ」って話をして「あ、B品でいいんですか?ありがとうございます!」となるわけです。
そういう若い人が出てきたことに、ちょっとこう、光が見える気がします。

【伊佐治】確かに、そうですね。

― 安くすれば売れるじゃんって、身も蓋もない話なんですけど、野菜はそういう部分があるんですよね。前職でITの営業してたんですが、ITは概念を売っているので、値段って有って無いようなものなんです。安くしたからって売れないんです。
でも野菜は、馴染みのある実物が、日常的な価格で、目の前にある。携帯電話に毎月1万円払っている人でも、100円のニンジンの横に130円の有機のニンジンを並べると「うーん、130円かあ…」ってなるんですよ。

【伊佐治】そうですね。

― そういうのは人間の心理としてあって、僕自身もずっと目をつぶってきたんですが、そうじゃないなと。これからは、今まで以上にコストダウンに取り組んでいかないと、マーケットが広げられないと考えています。

オーガニック野菜の運送費問題

【伊佐治】コスト面の大きな課題は、物流の費用なんですよね。市場便って言われているトラックが使える慣行と、一般の宅配業者を使っている有機との差が大きいです。

― 昨年から宅配便の運賃がかなり上がりましたね。北海道や九州から都内まで運ぶのに、今はもう2,000円だからね。野菜は単価が安いから、中身2,000円、送料2,000円ってこともある。もう何か悪い冗談じゃないかと思う(笑)

【伊佐治】高いですよね。近場のものと均しても、野菜の価格の2~3割は運送費が占めてしまう。夏のチルド便になると3~4割です。ここを何とかして、有機の価格は慣行の1.5倍って言われているものを、僕らの世代で1.3倍、できたら1.2倍くらいに持っていきたいたいですね。
そのためには、さっきの話じゃないですけど、僕たち業者が手を組んで、共同購入して運賃を下げるとか。

― やっぱり流通って、物流をどう実現するかと、量をどう集めるか、なんですよね。有機農業の世界って、理念が先行していて、物流を疎かにしてた部分もあると思います。良い意味でも悪い意味でも、今までのオーガニックのやり方が通用しなくなってきて、変革期に来ていると感じます。物流網が作れたら、大きな競争力がつきます。具体的にどうやるかは悩ましいけど(笑)

【伊佐治】そこは頑張ってアイデア出していきましょう。小回りがきく、意思決定が早いっていう、僕ら中小企業の強みを活かして、大手にはできないことをやっていきましょう。

― はい、頑張りましょう。

価格の安定は お客様にもメリット

― さっきの「同じ値段なら有機を買うよね」っていう話、今現実に起きていることもあるんですよね。天候不順とかで巷の野菜が高騰してるけど、有機の我々は契約栽培なので値段は変わらない。そうすると有機の方が安いって逆転する。3年くらい前までは、たまにそんなこともあるかな、ぐらいだったのが、ここ最近はしょっちゅうあるじゃないですか。

【伊佐治】そうですね。僕の印象でも、過去は年に3回ぐらい逆転したかなと思ってたんですが、去年~今年に関しては、倍、年に6回ぐらい逆転しています。そういう話を卸売市場の関係者ともしています。仲卸さん(編者注:卸売市場内で野菜を仕入れ、小売店や飲食店に卸売する業者)だと、お客様とは一定価格の年間契約を結んでいて、そこで市場価格の上がり方が酷すぎて、均しても赤字になってしまう、というのが出てきています。

― なるほどね。

【伊佐治】例えば小松菜、安い時期と比べると1.5倍になってる。それに、いつもは市場で買えるのに、ものが無いから宅配便で取り寄せる、その運送費もかかってきてしまって、計算すると赤字が出てしまっていたと。
一方で僕らは、小松菜なら同じ生産者から決まった価格で出せる。
仲卸さんも、こんな事が3年に1回ぐらい起こるなら、僕らから有機を仕入れた方が損益が読みやすいってことで、買ってもらうことが増えてきています。

― 何か良いタイミングというか、上手くやれば、何か見えてきそうという気は、すごくしますね。

【伊佐治】こういう変革期に、エネルギッシュに動ける企業は、残っていくと思います。オーガニックの業界は特に、未成熟な部分であるので、本当にチャンスだと思っています。

八百屋の喜び 「物」ではなく「人」を繋ぐこと

― この商売をやっていて、嬉しいな、楽しいなって思うのは、どういう時ですか?

【伊佐治】ベタな話になっちゃいますけど、やっぱりお客様のところですね。野菜を納めさせてもらった飲食店さんには、必ずご飯を食べに行く、というのをマイルールにしています。で、納めた野菜、提案したメニューを必ず注文して、どういう料理に変化しているかっていうのを見ます。農家さんの顔まで見えているので、それを食べている時が一番嬉しくて、それでまた頑張れるなって思うんです。

― 普通の話で、何にも面白くない。

【全員】(笑)

【伊佐治】そんな、他にあります?

― 僕が嬉しいなって思う時は、野菜を収めてるレストラン行って、そこの料理を…

【伊佐治】一緒じゃないですか。

【全員】(笑)

― いやでも、真面目な話、お客様のところに行ってみると「あっ、こんな風に料理するの!?」っていう驚き、それもスゴいのあるでしょ。

【伊佐治】で、またそれを農家さんに伝えたりとか。

― そうそう、言ってあげると、またそれを農家さんが自慢したりするじゃないですか。

【伊佐治】あの時の、農家さんの「ドヤ顔」を見た時が、最高に幸せかもしれないですね。

― そうそう、ちょっと照れくさそうに「おぉ、そうかっ」とか言う…

【伊佐治】それ 加瀬さん ですよね。(編者注:加瀬さんとの対談は↓こちらの記事で)

ビオシェルジュが聴く!生産者・加瀬さん 前編 - 有機栽培と肥料の深い関係 -
ビオシェルジュが聴く!生産者・加瀬さん 前編 - 有機栽培と肥料の深い関係 -
有機の生産者さんとの対談企画・第4弾は、加瀬嘉男さんです。 千葉県東部の平地で有機栽培を20年以上続けられ「加瀬農園のニンジン」と言えば広く知られた逸品です。 他の有機農家とは違う、その独特の土作りについて突っ込んで伺いました。

【全員】(笑)

― でもこの仕事、食べる事にこだわりがないと、続けられない気がします。レストランのお客様でも、趣味が食べ歩きとか、自分が食べるのが好きだから、作るのも好き、だから苦にならない、とかおっしゃいます。

【伊佐治】そうですね。

― だから弊社も全く儲かってないけど、全く苦にならないもん。

【伊佐治】(笑)

― 毎日、自社の野菜を食べてるけど、毎日「旨いな~」って思うんですよね。毎回毎回、同じものを食べてるのに「あ、旨いな~、やっぱり」って改めて思うんですよ。

【伊佐治】そうなんです。何か自分がアホになったのかなって思いますよ(笑)

― だから続けられるんだと思います。この野菜が手に入らないと大変なストレスになるので、この仕事は絶対続けようって決めてます。
農家さんの顔が見えるから、余計に美味しく感じるよね。それに季節が巡ってきたら、あ、〇〇農園さんのアレがまた食べられる!っていう楽しみもあります。野菜リストに載った瞬間、ワクワクしますね!

【伊佐治】楽しいですよね。毎年毎年、この季節に何が、っていうのが頭にあるので、時期が来ると「そろそろかな?」って生産者に電話して「はい、来たーっ!」ってね。そういう意味でも、生産者さんとの人付き合いは楽しいですよね。いい人が多いですし。

― やっぱり、畑に行かないとダメですよね。行って見ると、ものすごいイメージが湧くじゃ無いですか。愛情が深くなりますよね。これを皆んなに食べてもらいたいっていう思いが、さらに強くなりますよね。

【伊佐治】めちゃくちゃ湧きますね。

― 現場は大事ですね。築地とか大きな市場の人と話をしていても、現場に行きたがる人って、やっぱり通じやすいですよね。

【伊佐治】その通りですね。市場関係者とか、そこから買う飲食店のグループとなると、商売の規模もすごく大きいので、決め手が価格帯って、どうしてもなっちゃうんですよね。でもそれだと面白みがない。そこに、畑の魅力を伝える仕事をしていきたいですね。
ただの価格勝負で、農家さんを叩いてやっている商売を見ると「大丈夫かな?」って思っちゃいますね。後ろめたさのない商売、やっぱりみんなが納得いって、初めて繋がる、続けられると思います。

― 長続きさせるのは大事です。無理をすると続かないんですよね。だから農家さんにも、お金をちゃんと稼いで欲しいんです。皆んながいないと成り立たないんだから、儲けを上手くシェアするっていう発想で仕事をしないといけません。農家さん、仕入れ先を買い叩くんじゃなくて、さっきの話と矛盾するかもしれませんが、そこは小売業がもうちょっと高く売る努力が必要だと思います。一部のスーパーさんなんかは、そこに気づいていますよね。

【伊佐治】もう、やろうとしていますね。

― 消費者も、薄々感づいてるところだと思います。プライベートブランドとか作って、究極まで安くしたけど、何の魅力もない商品がバーっと並んでいるようにしか見えないとか、それを買うのが良いのか?っていうことも。
もうちょっと消費者にも、畑を見に来てもらえるようにしたいですね。畑が目に浮かぶだけでも、買い物の仕方って変わると思うんですよね。

【伊佐治】変わりますね。

同じ考え方の業者と協力して 業界を大きくしていきたい

― 最後に、これからの夢をお聞かせください。俗っぽい話でもいいですよ。フェラーリ買いたいとか(笑)

【伊佐治】そこもベタな話になっちゃうのですが…面白くないですよ?

― いいですよ。面白くないまま載せるだけですから(笑)

【伊佐治】ここで真面目に言うのは恥ずかしいんですけど、やっぱり従業員の生活ですね。本当によくやってくれているので、彼らが苦なく生活できる、いや、ちょっと良い生活ができるぐらい、そこまでは会社を大きくしていきたいです。

― うん。

【伊佐治】それにオーガニック野菜を扱うのって、自分でやっていて本当に良い仕事だと思うんです。これだけ胸が張れる仕事って、数少ないと思いますし、それに携われていることに、今すごく幸せを感じています。だからオーガニックの業界を大きくする、うちで何ができるかわからないですけど、お手伝いをしていきたいですね。抽象的な話ですが。

― でも、自分の会社と、その社員が伸びれば、オーガニックの業界が大きくなってるってことだからね。

【伊佐治】新しい業界との付き合いを拡げるとか、今までオーガニックを使わなかったところにも拡げる、その努力をしていきたいです。

― それが一番大事だと思いますよ。既存の大手業者の客を取ってやろう、ではなくて、今まで見向きもしなかった人に使ってもらう、それが大事だと思います。
― 他にも同じ考え方を持ってくれる業者がいれば、どんどん組んでいきましょうね。

【伊佐治】ぜひぜひ、組んでいきたいですね。

― 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

取材日: 2018/02/20

今回の対談は、ここまでです。いかがでしたか?

前編でも、ディープなお話を伺っています。併せてご覧ください!

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