分類:キク科シュンギク属
名称:Shungiku(英)、Crown Daisy(英)、Hrysantheme des jardins(仏)、シュンギク(日本)
鍋料理のわき役として欠かせない野菜の代表「春菊」。関西では「菊菜(きくな)」とも呼ばれています。
春菊は日本をはじめとする東アジア圏では野菜として栽培されていますが、ヨーロッパなどの海外では春菊の独特の香りや苦味が好まれず、主に観賞用とされています。それでも最近では日本食の普及により、少しずつ食用として利用されるようになってきました。
「春菊」という名前の由来は、通常菊は秋に花が咲くのに対し、食用とされる春菊は春に花が咲くこと、そしてその花が菊に似ているということだそうで、江戸時代の書物にも「春に花を開き、菊に似るが故」との記載が残されています。
春菊は病気や害虫が少ないことから栽培しやすい野菜です。また特有の強い香りがあることから他の野菜に発生する害虫を防ぐ効果があるため、コンパニオンプランツとして利用されることもあります。
名前は春の菊ですが、旬は11月~2月にかけての寒い冬の時期です。この時期の春菊は葉が柔らかく、香りも高く、風味も良くなります。全国的に栽培されていますが、最も生産量が多いのは千葉県で、次いで大阪府、群馬県、茨城県となっています。都市近郊での栽培が多い理由は、傷みやすく収穫してすぐに状態が劣化してしまうことから、消費者の元へすぐに届けられるようにするためです。
春菊と言えばお鍋が一般的な食べ方ですが、あくが少ないため、生のままでも美味しくいただけます。特に若い葉先を摘んでサラダにすると香りも豊かでとても美味しいです。そのほか、さっと湯がいてお浸しにしたり、豆腐と併せて白和えするのもお勧めです。天ぷらのネタとしても美味しくいただけます。ただし煮込みなど火を通し過ぎるととろけてしまい色が悪くなり、味も苦味が強くなるため、さっと軽めに火を通すくらいがよいでしょう。
歴史
原産地は地中海沿岸のギリシャやトルコ辺りで、古くから観賞用として栽培されていました。そこから東アジアへ渡り、中国で野菜用として栽培されるように品種改良されたのが食用としての春菊の始まりです。
日本での歴史は古く、中国を経由して室町時代辺りに伝わってきたと言われています。江戸時代から主に西日本で盛んに栽培されるようになりました。関東で栽培されるようになったのは昭和20年代以降と、比較的最近です。
種類
春菊の品種は葉の大きさや切れ込み方によって大きく4種類に分かれます。
- 大葉種
- 中大葉種
- 中葉種
- 小葉種
大葉種
葉の切れ込みが浅く、苦味や香りの弱い品種です。主に四国や九州で栽培されています。「ろーま」や「おたふく」などと呼ばれることもあります。生育が早いため収穫量も多いのですが、耐暑性や耐寒性の弱いタイプです。葉自身は肉厚で柔らかいため生のままサラダとして食しても美味しくいただけます。
中大葉種
葉の切れ込みは中葉種のように深く肉厚で、香りや苦味が優しい品種です。奈良県の伝統野菜として栽培されてきた「中村系春菊」と言われるものがこちらのタイプで「大和きくな」と呼ばれています。
中葉種
日本で最も多く栽培されているのがこの中葉種で、大葉種に比べて葉の切れ込みが深く、香りや苦味が強いのが特徴です。さらにこの種は株の形状によって「株立ち型」と「株張り型」の2種類に分けられます。「株立ち型」は次々伸びてくる茎や脇芽から摘み取って収穫するタイプで、主に関東で栽培されています。
それに対し、「株張り型」は成長しても茎が立たずに根元から株が横に張るため、根付きの状態で収穫するタイプで、主に関西を中心に広く栽培されています。
小葉種
葉の切れ込みは深めで、葉肉の厚みが薄く、香りが強いタイプです。ただし、成長が遅く収穫量が少ないことから、現在はあまり栽培されていません。
その他
サラダ春菊
サラダ春菊という品種があるわけではありません。香りが控えめで優しく、えぐみや苦味が少ないタイプで葉が柔らかいものをサラダ用として栽培しているものです。主に中葉種や大葉種が使われています。「やわらか春菊」とも呼ばれています。「きくまろ」という中大葉種の春菊や「Tiger Ear」という大葉種の春菊などがあります。また、茎が長くて柔らかく、茎の上の方にだけ葉がついているタイプで「スティック春菊」とも呼ばれるものもあります。
栄養・食養
緑黄色野菜の栄養素の代表「ベータカロテン」
ベータカロテンは抗酸化に優れ、身体をさび付かせないようにする栄養素です。
体内に入ると必要な分量だけビタミンAに変換され、活性酸素を抑えることから動脈硬化や心筋梗塞などといった生活習慣病やガンの予防につながります。また、皮膚や粘膜の状態を正常に保ったり、視力を維持するなど目の健康にも大切な役割を果たしています。
春菊に含まれているベータカロテンの量は生の状態で4,500μgもあり、意外にもほうれん草(4,200μg)や小松菜(3,100μg)、大根の葉(3,900μg)よりも豊富です。
なおベータカロテンは油や熱に強いため、生で食べるより、ボイルしたりソテーや揚げ物など油と一緒に調理したほうが吸収力がアップします。
バランスよく豊富に含まれている「ミネラル」
春菊にはカルシウム、マグネシウム、鉄、カリウムなど様々な種類のミネラルが豊富に含まれています。
その中でまず注目すべきはカルシウムやマグネシウム。カルシウムには骨を形成し、丈夫にする作用があり、骨粗しょう症の予防に効果があります。そしてそのカルシウムの吸収を助ける働きをするのがマグネシウムです。
また鉄分の含有量も多いため、貧血防止に効果的です。鉄分のうち、植物に含まれる非ヘム鉄は体内に吸収するためにビタミンCを必要としますが、春菊にはビタミンCも豊富に含まれています。
さらにカリウムも豊富で、ナトリウムと共に作用して細胞の浸透圧を調整するのに役立ちます。ナトリウムを過剰摂取すると血圧が上昇し高血圧を招く可能性がありますが、カリウムの作用により、摂取しすぎたナトリウムの排出を促して血圧を下げる、という調整を行ってくれます。
リラックスさせる香り成分「α-ビネン」と「ベリルアルデヒド」
α-ビネンやベリルアルデヒドは香り成分の一つです。
α-ビネンはヒノキやスギ、クロモジなどの針葉樹に含まれており、樹木系の精油の原材料として多く用いられている成分です。「森の香り成分」とか「森の癒し成分」などとも呼ばれています。さわやかな香りが特徴で、この香りが脳へ伝わり自律神経に作用するためストレスの軽減に役立ちます。他にも血行を促進したり、免疫力を向上させる効果もあると言われています。
また、ぺリルアルデヒドは主にシソ科の植物に多く含まれているもので、α-ビネンと同様に自律神経に働きかけリラックス効果がある他に、咳を鎮める効果もあります。また、強い抗菌や防腐作用があることから食中毒を予防する、消化酵素の分泌を促して食欲を促進させる、胃を保護して胃腸の働きを高めるなどといった効果もあります。さらに、最近の研究において腸の炎症を緩和する作用があることが証明されました。
α-ビネンやぺリルアルデヒドのような香り成分は、細かく刻むほど細胞が破壊されて香りが立ち、その成分の持つ効果がより強く作用します。
春菊あれこれ
東の「春菊」と西の「菊菜」
「春菊(しゅんぎく)」は主に関東で呼ばれている名称です。関西では春菊とは言わず「菊菜(きくな)」と呼ばれています。どちらも同じキク科シュンギク属ですが、栽培されている品種が異なります。関東では葉がギザギザとして切れ込みの多いタイプが春菊として栽培されていることが多く、関西では葉の切れ込みがさほどなく丸みを帯びた大きな葉が特徴の品種が菊菜として栽培されています。
また茎にも違いがあり、関東で栽培されているものは「株立ち型」といって1本の太い茎から分岐して細い茎が伸び、その先に葉をつけるタイプです。根ごと抜き取らずに大きく伸びたわき芽を摘み取るように収穫するため「摘み取り型」とも呼ばれます。一方関西で栽培されているものは「株張り型」と呼ばれているタイプで、茎があまり大きくならず、株が横に張るように育つため株ごと収穫されます。根付きのまま引き抜くため「抜き取り型」とも呼ばれます。