分類:アブラナ科アブラナ属
名称:broccoli(英)、brocoli(仏)、 ミドリハナヤサイ(緑花野菜)、メハナヤサイ(芽花野菜)(日本)
まるでブーケのような、はたまたアフロヘアのようなユニークな形状の「ブロッコリー」。キャベツや小松菜、大根などと同じアブラナ科で一年草の緑黄色野菜です。栄養が非常に豊富で、味や香りに癖がない上に優しい甘味があって食べやすいことから幅広い年齢層の方々に好まれています。ブロッコリーで食べる部位は花蕾と花茎なので、分類としては花菜類になります。
ブロッコリーという名前の語源はいくつかあり、ラテン語で「突き出た」という意味の「brocchus(ブロックス)」からイタリア語の「若い芽」という意味の「broccoli(ブロッコリー)」に変化したという説や、ラテン語で「芽」や「茎」という意味の「brocco(ブロッコ)」が変化したものという説などがあります。
とても人気の高い野菜なので、現在では一年を通して販売されていますが、本来の旬は11~3月の寒さが厳しくなる晩秋から春先です。日本全国で栽培されておりますが、収穫量の最も多いのは北海道で、2位と3位は年によって順位が入れ替わりますが、愛知県と埼玉県です。
美味しく育ったブロッコリーは、鮮やかな緑色で、頭がこんもりと盛り上がっており、蕾が密集してしっかりしまっています。時々紫がかったものがありますが、これはブロッコリーが寒さから身を守るために出したアントシアニンによるもの。実はこちらの方が緑色をしたものより甘味が増して美味しいのです。
暖かいところに置いておくとすぐに蕾が黄色くなって花が咲いてしまうので、保存する際は野菜室よりも冷蔵庫などのひんやりした場所であることが必要です。なお、黄色く変色したものも食べることはできますが、苦味が出たり風味が落ちるなど味は劣化してしまいます。
一般的には茹ででサラダとして食べることが多いですが、他にもスープにしたり、油でソテーしたり、フライやてんぷらなどの揚げ物にしても美味しくいただけます。また、茎の部分は花蕾よりも栄養価が高く、味に癖がないので捨てずに食べることをお勧めします。この際、表面の皮は固いので取り除いた後、きんぴらのような炒め物や、生のまま醤油や糠などで漬物にしたり、花蕾と同じように茹でてサラダにしたりと、どんな調理にも合います。
歴史
ブロッコリーの祖先はアブラナ科のケール。これが何度も交雑を繰り返してキャベツが生まれ、そのキャベツがさらに変化して生まれたのがブロッコリーと言われています。原産地は地中海沿岸で古代ローマの時代から食用とされていましたが、この頃はまだ今の形状のブロッコリーではなかったそうです。
イタリアで本格的に栽培されるようになったのは15~16世紀頃になってからで、その後品種改良が繰り返されのちに17世紀頃ドイツやフランスなどヨーロッパ各地へ広まりました。現在のブロッコリーのような品種になったのは19世紀頃で、そのあとアメリカに伝播したと言われています。
日本へは明治時代の初期辺りにカリフラワーと共に渡ってきましたが、当時はあまり普及せず、観賞用として栽培されていることが多かったそうです。食用として本格的に栽培されるようになったのは第二次世界大戦後で、日本の食事が欧米化して日常的にサラダを食べるようになったことがきっかけです。
その後、1980年代に入ってからアメリカの国立がん研究所の「デザイナーフーズ・プロジェクト」において、ブロッコリーは非常に栄養が豊富であり、特にガン予防に良いとされる栄養素が多く含まれていることが判明したことで注目を集め、そこから急速に普及しました。
種類
ブロッコリーは花蕾の付き方により2種類に大きく分類されます。
・頂花蕾型
・側花蕾型
・その他
頂花蕾型
ブロッコリー
一般的に「ブロッコリー」と呼ばれているものがこのタイプです。太い茎の先端の中心に鮮やかな緑色をしたつぼみをつけ、その蕾と茎の部分を食します。
品種はたくさんありますが、販売の際は特に品種を明記することはなく、いずれの品種であっても単に「ブロッコリー」として売られています。
代表的な品種としては、「ピクセル」「おはよう」などがあります。「ピクセル」は日本で現在一番栽培されていると言われている品種で種まきしてから約90日で収穫でき、大型で粒が細かく、しまりが良いのが特徴です。早生品種ですが長期に渡って栽培可能で温暖地の秋採り、初夏採り、寒冷地の夏採り、初秋採りが可能です。ピクセルの次に人気のあるのが「おはよう」という品種で、種まきしてからや約95日で収穫できるタイプです。花蕾は小粒で、色は濃い緑色をしています。ピクセルと同様に栽培期間が幅広いのが特徴です。
紫ブロッコリー
形状は一般的なブロッコリーと同じですが、花蕾の部分が鮮やかな紫色をしたタイプです。この色はポリフェノールの一種であるアントシアニンによるものです。寒さから身を守ろうとするためにアントシアニンを出すことから紫色に変化し、甘味が増加します。ただしアントシアニンは熱に弱いため、茹でるなど加熱をすると緑色に変わります。
ロマネスコ
ブロッコリーとカリフラワーの中間種といわれており、「ロマネスク」や「カリッコリー」と呼ばれることもあります。
栽培はイタリアのローマで始められたという説と、ドイツで始められたという説など諸説ありますが、「ロマネスコ」という名前はイタリアでの「ブロッコロ・ロマネスコ(Brocolo Romanesco)」(ローマのブロッコリー)が由来となっています。
ブロッコリーやカリフラワーと同様の頂花蕾型で、側花蕾型は存在していません。味はブロッコリーに近く、食感はカリフラワ-、色はブロッコリーとカリフラワーの中間的な薄緑色をしています。
ロマネスコの最大の特徴は花蕾の独特な形状で、全体的に規則正しい螺旋を描いた形をしており、さらにその蕾一つ一つを見てみても同じように螺旋を描いた形をしているという、幾何学的なフルクタル(自己相似)構造をしています。
16世紀ごろから栽培されていますが、流通し始めたのは1990年頃と歴史的には非常に浅く、日本ではここ数年で少しずつ出回るようになりました。
食べ方は茹でてサラダやピクルスにしたり、ガーリックなどと共にソテーしたり、フリットなどの揚げ物やスープの具材に、とブロッコリーやカリフラワーと同様、様々な料理で利用できます。
側花蕾型
基本的には頂花蕾を収穫した後に出てくる側花蕾に当たる部分のもので、茎が細長く、花蕾と茎を食用とするタイプです。側枝を何度切ってもまた生えてくるという特徴があります。現在では側花蕾型専用として栽培されている品種が多く出回っています。
頂花蕾型のブロッコリーのように蕾を切り分ける手間がいらないため使いやすく、近年人気を集めつつあります。側花蕾型の品種として代表的なものが「スティックセニョール」、その他「アレッタ」「はなっこりー」などがあります。
スティックセニョール
ブロッコリーと中国野菜の一種「カイラン」を掛け合わせてできたタイプです。側花蕾専用として栽培されています。販売されたばかりの頃は「ブロッコリー二」という名前で呼ばれていました。
現在では「茎ブロッコリー」や「スティックブロッコリー」などとも呼ばれています。
頂花蕾型のブロッコリーのように蕾を切り分ける手間がいらないため使いやすく、味はアスパラガスに似ています。
アレッタ
ブロッコリーとケールを掛け合わせてできたタイプで、側花蕾専用として栽培されています。
はなっこりー
山口県でブロッコリーと中国野菜の一種「サイシン」を掛け合わせて作られたタイプで、側花蕾専用として栽培されています。2003年に初めて市場に出てきたばかりの新しい品種です。
その他
ブロッコリースプラウト
「スプラウト」とは新芽という意味で、スプラウトの代表的なものにカイワレ大根やもやし、アルファルファ、豆苗などがあります。「ブロッコリースプラウト」はそういったスプラウトの一種で、発芽してすぐのブロッコリーの新芽です。
ブロッコリースプラウトは、カイワレ大根に比べて辛味が感じられないので食べやすく、また成長したブロッコリーより栄養価が高いと評判です。特に抗酸化作用の高いビタミンACE(βカロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンE)が豊富に含まれています。またガン予防に効果的なフィトケミカルの一種「スルフォラファン」の含有量が非常に多いことで世界的に注目を集めています。
栄養の宝庫であるブロッコリースプラウトの栄養効果を無駄なく摂取するためには、サラダやサンドイッチの具材にしたり、スムージーなどの野菜ジュースに入れたりなど、生のままいただくことをお勧めします。
栄養・食養
ブロッコリーは栄養バランスが非常に良い万能野菜です。緑黄色野菜全般に多く含まれているビタミンACE(βカロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンE)やミネラルが特に豊富。なかでもビタミンCにおいてはレモンの約2.5倍(レモンの皮も含めた場合は1.2倍)、キウイの2倍もあります。
しかも低カロリー、低糖質、低脂質。健康面だけでなくダイエットにも効果的な野菜として注目されています。
ここではブロッコリー含まれる栄養素のうち、特徴的なものをいくつかご紹介します。
解毒力・抗酸化力を高めるフィトケミカル「スルフォラファン」
ブロッコリーに含まれている栄養成分のなかでも最も注目を集めているのが「スルフォラファン」です。スルフォラファンはフィトケミカルの一つで、さまざまな働きがありますが、その中でも特に注目されているのが酵素の生成を促進することです。特に解毒酵素と抗酸化に関する酵素とのかかわりが強く、解毒酵素の働きが良くなることにより肝臓の解毒力が高まり肝機能の向上につながります。また抗酸化に関わる酵素の促進をサポートすることで、活性酸素の除去力がアップするだけでなく、その効果を持続する力もあります。
これらの酵素への働きかけにより、肝炎などの肝障害発症の抑制や、生活習慣病やガンなどの予防に効果があると言われています。
スルフォラファンの持つその他の作用としては、ピロリ菌の殺菌作用と炎症を抑制する作用、花粉症の症状を緩和する作用、AGEの形成を抑制する作用によるアンチエイジング効果などがあり、また自閉スペクトラム障害(ASD)にも効果があるという研究結果も報告されています。
なおスルフォラファンは、成熟したブロッコリーに比べてブロッコリースプラウトの方が約7倍も多く含まれています。スーパースプラウトと呼ばれている新芽3日目ほどのスプラウトの場合はさらに多く、成熟したブロッコリーの約20倍ものスルフォラファンが含まれています。
スルフォラファンは前駆物質として存在しているため、細胞を破壊しミロシナーゼによって分解されることで生成されます。このため摂取するにはよく噛んだり、刻んだり、すりつぶしたりするなどが必要です。このためスプラウトの場合は生のまま摂取、成熟したブロッコリーの場合は切ってからしばらく放置するのがよいそうです。
悪玉コレステロールを下げる「SMCS(S-メチルシステインスルホキシド)」
アブラナ科の野菜に多く含まれている天然のアミノ酸の一種にSMCS(S-メチルシステインスルホキシド)があります。これは悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる効果が認められています。具体的には、コレステロールを胆汁酸に変換する働きをする酵素(コレステロール7α-ヒドロキシラーゼ)を活性化させて、胆汁酸を便として排泄することでコレステロールを低下させます。これにより血管への負担を軽減し、さらには脂質異常症や動脈硬化などの予防につながります。
このSMCSの含有量が特に多く含まれているのは、ブロッコリーの花や葉の部分で、花は721mg%、葉には583mg%の含有量が確認されています。
また、ブロッコリー以外の野菜ではタマネギなどのネギ科の野菜やキャベツにも多く含まれています。
代謝のミネラル「クロム」
ブロッコリーに多く含まれているミネラルのうち、「クロム」という成分があります。クロムは人間の体内にあるすべての細胞に存在しているもので、私たちが活動するために不可欠な栄養素の1つです。
クロムのメインとなる作用は2つあり、そのうちの1つが代謝を正常に維持することです。脂質、糖質、タンパク質、コレステロールなどさまざまな代謝のサポートをします。このことから「代謝のミネラル」と呼ばれています。
もう1つはインスリンの働きを助け、高める作用です。インスリンは糖質をエネルギーに変換し、血糖値を低下させる働きをします。このインスリンの働きを促進することから、糖尿病の予防に効果があると言われています。
クロムは体内に吸収しにくいミネラルですが、ビタミンCと一緒に摂取すると吸収しやすくなります。ブロッコリーにはビタミンCも豊富に含まれているので、ブロッコリー単体でいただくだけでこのクロムを効果的に吸収できます。
ブロッコリーあれこれ
ブロッコリーの食べ過ぎで注意すべきと言われていること
これはブロッコリーに限った話ではなく、アブラナ科の野菜全般に言えることなのですが、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜に含まれる「コリン」という成分は体内に入ると「トリメチルアミン」という物質に変化します。このトリメチルアミンはいわゆる腐った魚のような臭いがするもの。これが汗などとして体外へ排出されることから、体臭が強くなる原因になります。
とはいえ、多量摂取の量は一日に1kg以上と言われており、これはブロッコリー約3株分に相当します。通常はそれほどブロッコリーを摂取することはないと思いますのでさほど気にする必要はありませんが、あまりにも多く摂取する際には注意が必要です。
また、ブロッコリーに含まれている「ゴイトロゲン」という成分は甲状腺を腫れさせる物質と呼ばれ、甲状腺ホルモンの分泌を妨げ甲状腺機能低下症を起こすと言われることがあります。しかし、これは多量摂取させた動物での実験結果の報告であり、実際に通常の人間で甲状腺機能低下症を引き起こしたという報告は存在していないそうです。なので、コリンのケースと同様、常識を超えた多量摂取でない限り問題ないとの報告があります。
ブーケトスではなくブロッコリートス?!
ここ10年ほど前から流行り出したのがブーケトスならぬ「ブロッコリートス」。ブロッコリーをブーケに見立てて花やリボンで可愛らしく飾り、トスするという演出です。意味合い的にはブーケトスと同じですが、こちらはブーケトスの男性版。ブーケではなくブロッコリーを、新婦ではなく新郎が投げ、未婚の女性ではなく未婚の男性が受け取るというスタイルです。ブロッコリーにはマヨネーズが添えられることもあるそうです。
ちなみにブロッコリートスを行うタイミングは、ブーケトスの前。やはりまだまだブーケトスがメインです。
ブロッコリーの形状がブーケに似ているから、ということで始められたそうですが、そのほかにもブロッコリーには「小さな幸せ」という花言葉があり、またたくさんの蕾の集まりであることから「子宝繁栄」の意味が込められているとか。
ただし、食べ物を粗末にしているように思われることもあるため、1.5次会や2次会などで行われたり、投げずに手渡しするケースもあるそうです。